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紅の絆  作者: 伊代
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傷痕 - 菊

 黄連が自生しているのは山の中腹、暗い木々に覆われた崖の下だ。

 菊の足では村から半時程の場所にある。

 その近くには山からの湧き水による清流が出来ており、麓まで流れ出て村の生命線となっている。それを遡って行けば菊でも迷う事のない、単純な道筋だ。


 四半時ほど歩いただろうか。

 獣道の脇に珍しい薬草を見かけた。練り合わせて身体の痛む部分に擦り込むと良い外用薬になる。

 折角なのでそれも養父母のために摘んで帰ろうと腰を折って籠に入れた、その時。


「痛っ!?」


 突然、着物の裾からむき出しの右足首に鋭い痛みが走る。

 驚いて立ち上がれば、その辺の草藪がザザザと蠢く。

 急に大声を出して立ち上がった菊に驚いて、何かが逃げ込んだのだろう。

 痛む部分を見れば、何かに咬まれた痕があり僅かに出血している。


「イヤだなぁ、何に咬まれたんだろ」


 痛みはあるものの、歩くのに支障がある程ではない。

 菊は懐から手拭いを出すとそれで足首を縛り止血した。


(また宗太にからかわれちゃうなぁ……)


 宗太曰く、菊は何もない所で転ぶ名人らしい。

 この歳になっても小さな怪我が多く、この程度の手当は手慣れたものだ。


 そうして歩き出した菊は、少しして身体の異変に気付いた。

 右足からピリピリと痺れたような感覚が広がり、身体が熱っぽい。


(早く帰ってしっかりと手当した方が良さそう……)


 しかし目的地はもう目の前。

 感覚のない足を引きずるように藪の中を急ぐ。


 そうして黄連の自生地に着いた時、ようやく自分が酷く出血している事に気付いた。

 手拭いが吸い切れぬ血液が爪の先から草履までを真っ赤に染め上げている。


「え、なんで―――?」


 確かに止血したはずだったのに、痺れのせいで出血にも気付かなかった。

 こんなに血を流しては肉食獣が匂いにつられやってくるかもしれない―――。


 とにかく早く帰ろうと、乱暴に黄連を引っこ抜いては籠に放り入れる。


 まだまだ採取出来るがまた日を改めて来れば良いか―――と、立ち上がろうとしたものの、膝に力が入らずガクリと崩れ落ちる。


(拙いなぁ……歩けそうにないや…………)


 祭りの日に山へ入って来るような村人はおらず、助けを求める事も出来ない。

 もうじき日が暮れ、肉食獣が動き出す―――。


「―――どうしよう……死んじゃう、かも」


植物として登場している「黄連」と「ナギ」は実在します。

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