第一章「罪×想い」
・・・一瞬、何が起きたのか天倉響には理解出来なかった。
転校生が何かを口ずさんだ瞬間、教室が真っ赤に染まった。
―――それだけではない。さっきまで教室にはあれだけ生徒がいたのに、
今この空間には二人の姿しかなかった。
「な、何なんだよこれは・・・?」
響は今自分の身に何が起きているのか、全く理解できていなかった。
・・・だが一つだけ分かるのは――――――死―――――――。
恐怖と混乱に押しつぶされそうな響の耳に先程の転校生の声が聞こえてくる。
「大人しく俺に殺されるんだな・・・アマクラヒビキ」
それは先程も言っていた「天倉響を殺す」という言葉。
「な、なんで・・・俺が殺されなくちゃいけないんだ!?・・・それに」
響は辺りの様子を伺い言葉を続けた。
「他の皆は?!・・・なんで俺達しかいないんだっ!!!」
響は取り乱していた・・・無理もない。こんなとんでもない状況に陥っているのだから。
本当は今でも夢なんじゃないかと疑いたくなる。
だが、転校生の口から発せられたのは酷く冷たいものだった。
「・・・お前が知る必要はない。お前はただ俺に殺されれば、それでいい」
――――――なんだよそれ。そんな理不尽が許されるっていうのか?いきなり現れて死んでくれだって?
「・・・・・ざけんな」
「・・・?」
「っふざけんなよ、テメェー!!!!!」
さすがに我慢の限界だった。いきなり訳の分からない状況に立たされ、挙句の果てに死を強要された。吹っ切れる理由は十分にあったのだ。
「理由も言えないような奴にそんな簡単に殺されてたまるかよっ!!!」
「・・・・・・そうか」
すると転校生は先程、何もない空間から出したと思われる長槍?をこちらに向けて構えた。
「なら、精々足掻いてみるがいい・・・」
―――――瞬間、目の前にいたはずの奴の姿が消えていた。
「・・・・え?」
「遅いな」
「――――、―――!?」
―――シュッ、グサ
鋭い痛みが左肩に走った。見れば響の肩に先程の長槍が突き刺さっていた。
「・・・う、あがぁあぁぁっ!」
「ふん・・・反射神経だけは良いようだな」
そう、転校生「氷堂薫」は確実に仕留めるために、天倉響の心臓を狙っていた。
だが、それを響は回避した。肩に刺さったものの直死を免れたのだ。
「・・・へ、へへ。そう簡単に・・・殺されて・・・たまるかってんだ」
そう言うと、響は肩に刺さっていた槍を引き抜き、氷堂との距離をとった。
「・・・・・・」
すると何を思ったのか、氷堂はいきなり目を瞑りだした。
「へ、へへ・・・。どうしたんだ?一発で殺せなかったからってもう諦めたのか?」
この時、俺もどうかしていたのだろう。すぐにでも逃げればいいのに、相手を煽るようなことを言っていた。・・・自分はまだ生きている。その実感が響を舞い上がらせていた。
「・・・・・哀れなやつだ」
氷堂の冷たい声が発せられる。そして響を憐れむような目で見つめてきた。
「この程度で逃げ延びたと・・・本当にそう思っているのか?」
「・・・・だったら?」
「ふん・・・実に愚かだ」
氷堂は苦笑しながらも手に持っている槍を目の前にかざした。
「お前はこの”魔槍”の一撃を喰らっているのだぞ?」
――――魔槍。さっきも言ってたな、ええっと確か・・・ウィ、ウィザ、ウィザード?がどうたら、こうたら・・・あぁ!もうわかんねぇ~!!!!
「だったらどうした?ただの槍じゃないかそんなの!!!」
「ただの槍ではない・・・魔法武器だ」
そうそう、それだよそれ!!
「って、なんなんだよその・・・魔法武器って?」
「貴様が知る必要はない・・・」
またそれかよ・・・それくらい教えてくれたっていいだろうに。
まぁこんな状況下で呑気に話なんかしてる場合じゃないか・・・。
左肩の出血も結構酷いしな・・・・って―――。
「―――――う、腕が凍って・・・?」
改めて肩を見てみると、槍が刺さっていた傷口から氷が広がって腕全体を覆っていた。
「ようやく気が付いたのか」
なんで俺の腕が凍って・・・?いや、そもそもいつからこの状態だったんだ?
「これでただの槍でないことは理解できただろ?」
すると氷堂は不敵に微笑みながら、響にこう告げた。
「これが俺の魔法武器・・・氷の属性を司る守護獣”魔槍”だ・・・」
確かに、ただの槍ではなさそうだな・・・・ってか凍らせる力がある槍ってなんだよ!?
魔法?・・・あまりに非現実的すぎる。それに・・・・。
「相手の傷口を凍らせてどうすんだよ?いい止血じゃないか!」
そう、確かにあの槍に驚異的な力があるのは分かる。
だがそれは同時に響の命を繋ぎ止めていた。
本来ならば大量出血で死んでいてもおかしいくらいの傷口は氷によって塞がれていた。
「・・・・ふっ」
途端、氷堂が苦笑した。
「な、なにが可笑しい!」
「いや・・・確かに「このまま」ではお前の言うとおりだと思ってな」
「・・・・?」
「このまま」とはどう言うことなのか、響はその言葉に引っかかった。
「・・・どういうことだよ?」
その響きの疑問に答えるかのように、氷堂が魔槍を構え直した。
「すぐにわかる」
氷堂が何やら唱えはじめると、周りに無数の円が現れた。漫画で見たことのある・・・そう
まるで魔法陣のようなものが。
「”魔槍”第二槍術 ”氷結乱舞”」
途端、響の左腕の方から軋む音が聞こえてきた。
―――――嫌な予感がする・・・。
「――――爆ぜろ」
ッパキーン
耳元で何かが弾ける音・・・目の前を飛び交う無数の氷の破片。
そして、目を向けて驚愕した。
―――そこに、あるはずの、俺、の腕が、肩から根こそぎ、なくなっていた。
「・・・・え?」
一瞬のことで忘れていたのだろう。徐々に激痛が押し寄せてきた。
「―――――――ひっ、ひぎぃいぃいああぁああぁいぃいあぁああっ!!!!!!!」
腕が根こそぎ吹っ飛んだというのに血が全く出ていなかった。
それもそのはず、傷口はまたしても氷で覆われていたからだ。
「・・・どうだ、痛いか?痛いだろうな・・・しかもその痛みは俺がお前の心臓を貫かない限り
永遠に続くぞ」
すると氷堂は突拍子もなく語りだした。
氷堂が言うには、この魔槍は戦闘目的ではなく言わば拷問
に使われていた。罪を犯した者にすぐ死を与えるのではなく、生きながらに死に等しい苦痛を与えることで悔い改めさせるために使われていたという。
大抵の者はあまりの激痛に気を失うか、ショック死だそうだが・・・。
「・・・かはっ」
ヤバい・・・意識が・・・・。
「理解したか?アマクラヒビキ」
頭上から氷堂の声が聞こえてくる。
・・・理解?今の話で何を理解しろって?無茶にもほどがある。
それに・・・一番大事なことを聞いてない。
「なぁ・・・・ふ、ふたつ・・・聞いて、もいい、か?」
「なんだ?」
「今の話の・・・かはっ、ながれ・・から察するに・・・俺は・・・罪を犯したのか?」
そう。俺が聞きたいのは結局コレだ。なぜ俺を殺しに来たのか・・・。
ちゃんとした理由があるはずなんだ。でなきゃ、死んでも死にきれねぇ・・・。
「なぁ・・・どうなんだよ、氷堂?」
少しだけ間が空いたあと氷堂は答えた。
「・・・あぁ」
その答えを聞き、響は何かを諦めたように清々(すがすが)しい顔になった。
「・・・・そっか」
響のすべてを悟ったような表情に氷堂は苛立ちを覚えた。
「なぜ、そんな顔をする?死ぬんだぞ?身に覚えのない罪で!!」
「でも、あるんだろ?罪」
「・・・・・・」
「そ、それと・・・・もうひとつ」
本格的にマズイな・・・・視界がぼやけてきた。
「・・・なんだ?」
「ほ、他の皆は・・・無事・・・なんだな?」
これが最後の心残り・・・これさえ分かれば俺は・・・・。
「あぁ・・・それについては安心しろ。お前以外は全員無事だ。
お前が死んだあとも、他のやつらの記憶からはお前の存在は消えているだろう」
「そっか・・・・皆・・・無事・・・・な、ん・・・・だ・・・・な」
皆に心配かけずに済むなら・・・それでいい。
俺は・・・・もうダメみたいだ。
出来れば・・・最後に・・・・涼香の笑顔が・・・・・見たかった、な。
――――――――諦めないでッ!!!!
ふと女の子の声が聞こえた。
俺に逃げてと言った少女の声・・・・。
・・・・き、君はいったい・・・?
――――――――こんなところで終わっていいの?!
・・・・俺には罪があるらしいんだ・・・。
――――――――でも身に覚えがないんでしょ?
・・・・どうしてそれを・・・?
――――――――私はいつだってあなたを見ていたわ
・・・・君は・・?
――――――――そんなこと今はどうだっていいわ!!
私はあなたにこのまま終わってもいいのか聞いてるの!
・・・・・。
――――――――どうなの?本当はこのまま終わりたくないんじゃないの?
・・・・・お、終わりたくない・・・・。
――――――――。
・・・・・本当は死にたくないよっ!!もっと皆と笑っていたいよっ!!!
もっと生きていたいよっ!!!!
口にすれば簡単だった。秘めていた想いがどんどん溢れていく。
――――――――よく言ったわね。その「生きたい」という気持ちしっかり持っておきなさい。
・・・うん。で、でもっ!!俺、もう・・・。
――――――――大丈夫、あなたは死なない。私が死なせはしない・・・・・。
「・・・・気を失ったか」
氷堂の目の前には教室の床に横たわっている天倉響がいた。
まだ生きていはいるのだろう。かすかに息をする音が聞こえる。
だが、そう長くは持たないだろう。
「アマクラヒビキ・・・・」
罪・・・確かに罪はあるのだろう。
だがそれはこいつに宿る・・・・。
「・・・いや、止そう」
殲滅対象に情を抱いては、
任務に支障をきたす。
・・・・そう教わってきたのだから。
「悪く思うなよ・・・」
横たわっている響に矛先を向けようとした・・・その時。
キィーン
「・・・くっ?!」
眩しい光が教室全体を包み込んだ。
凄まじい光がだんだん薄れていくと響の体を覆うように紫色の魔法陣が展開されていた。
「ちっ・・・しまった、次元転送か!!」
急いで魔槍を投げつけるも、視界を再び眩い光が包み込む。
だが気がつけば響がいたはずの場所には魔槍だけが取り残されていた。
「くっ・・・俺としたことが迂闊だった」
氷堂は歯を食いしばった。
握りこんだ手からは血が流れ落ちていた。
「まさか、奴がアマクラヒビキに既に接触していたとは」
そして遠くを見るような目をしながら静かに、だが確信をもってこう言った。
「・・・リリム・スカーレッド!」
氷堂の声だけが静まり還った教室に響き渡った。
この度は、Guardian★Wizard第一章「罪×想い」をお読みくださって誠にありがとうございます。
物語もようやく進展の流れをみせる今回。
未だ活躍しない主人公ではありますが、今後主人公らしいところが垣間見えるのではないでしょうか!
主人公の成長、魔法武器、主人公に語りかける謎の声、主人公の背負っている罪とは?
まだまだ謎は多いですねw
そんな本作をどうか今後ともよろしくお願いします!