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目が覚めると、もう日が沈み、放課後になっていた。どうやらまた、机に顔をふせて寝ていたらしい。…誠一にバレてなきゃいいけど。
「気持ち良さそうに寝てたなぁ、彩音」
「わっ!びっくりしたぁ…なんだ、雄斗か」
急に声をかけられ顔をあげると、雄斗が前の席に座っていた。でも隣のクラスの彼がなぜここに?
「なんだとは失礼だなぁ。俺じゃダメ?」
雄斗はそう言って軽くウインクしてみせる。こういう行動が簡単に出来てしまうのが雄斗だ。
「あ、ごめん。誠一かと思って」
「ああ、なるほど。…それよりさ、天野知らね?」
「理子?」
私は理子の席の方を見渡した。そこに理子の姿はなかった。
「ごめん、わかんない。なにせ、ご覧のとおり今起きたとこですから…えへへ」
「そうだったな。ったく…どこ行ったんだ?」
「…急用なの?」
「そういうわけじゃねぇけど…ちっと探してみる。じゃあな」
「うん。また明日」
私は雄斗に手を振った。
雄斗が理子になんの用なんだろう。
背が高くて女の子には優しい雄斗は、女の子に人気がある。そんな雄斗と理子が並ぶと言葉を失うほど絵になるという噂があるが、2人はなかなか話はしない。
なぜなのかは私もよく知らないけど、お互いに避けているような気がする。
「彩音。帰ろう」
「あ、誠一。理子見なかった?」
「さぁ。見てないが」
「…そう。役に立たないなぁ」
私の一言に、無表情の顔がピクリとする。私は決して悪気があって言ったわけじゃないの。…多分。
「放課後になったのもわからないくらい寝てた人には言われたくないな」
「げ…見てたの?」
「だいだい授業中に寝るということがいけないことだと、何度言ってもわからないみたいだな」
「わかってますわかってます!さぁ早く帰ろう!!」
私は誠一の背中を押しながら教室を出た。そして適当なこと言って話題を切り替え、誠一の機嫌をとったりして…なんとかお説教から逃れることが出来たみたい。
誠一の扱いに慣れてきた、そんな私が悲しい…
「いだっ!」
前を歩いている誠一が急に立ち止ったので、私は顔を誠一の背中にぶつけてしまった。
「…いてて…どうしたっていうの、誠一」
誠一は私の話が聞こえてないようで、壁をむいてじっとしている。視線の先を追うとそこには1枚のポスターが貼ってあった。
そのポスターには…
「『キミも生徒会に入って学校の為に活動しよう』…?」
それは、生徒会役員を募集するポスターだった…
やっぱり誠一、やりたいんじゃん。
「…誠一やればいいじゃん。何をためらってるの?」
「…ためらってない」
「ったく。何をそんなに頑なになってんだか…じゃあ帰ろ」
深いため息をしてその場を離れようとしたとき、私はハッとした。そしてゆっくりと誠一の方へ向き直り…
「まさか…私の世話焼かないといけないから…なんて言わないよね…?」
「………」
誠一は表情を変えることなく黙っている。それは肯定していることと同じことで私はイラ立っていく。
「ちょ、ちょっと待ってよ!生徒会に立候補しないのは、私のせいだっていうの!?」
「…そうは言ってないだろ」
「そう言ってるのと同じじゃない!」
私はまわりを気にせず、つい怒鳴ってしまった。近くを歩いていたひとは、チラチラとこちらを見ている。
誠一は静かに口を開いた。
「彩音、黙って聞け」
「なに…?」
「俺は、お前の両親からお前のことを頼まれてるんだ。生徒会に入れば集会などで時間が割かれ、朝早く登校することもあるだろう。そうなれば誰が彩音を起こし、誰が朝食を作るんだ?」
私は誠一の言葉を聞いて、何を言ってるのか瞬時に理解できず絶句してしまった。
この人の責任感って一体……