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授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響き、私は背伸びする。次は待ちに待った昼休みなので、誠一に作ってもらったお弁当をカバンから出そうとしていると…
「ねぇ…彩音はどう思う?」
「ん?何が?」
気がつくと理子がお弁当と1枚のプリントを持って立っていた。
「彩音ったら、授業聞いてなかったのね?」
「あはは…半分寝てた」
苦笑いしている私に、理子は持っていたプリントを見せた。
「生徒会の選挙だよ。…私、副会長に立候補しようと思って」
そのプリントには『生徒会役員選挙!』と大きく書いてあった。内容によると、生徒会役員になるには立候補でも推薦でもいいらしい。
「理子はしっかりしてるし、いいんじゃない?ピッタリだよ」
「そうかな…?そう言ってもらうと嬉しい…」
「でも、どうせなら生徒会長に立候補すればいいのに」
私のその言葉に、理子は顔を真っ赤にして固まってしまう。この反応ってことは…
「あの…誠一くんは…その、生徒会長に立候補しないのかな…?」
「誠一?」
「俺が何?」
「きゃぁっ!!」
「うわっ!ビックリした~…急に現れないでよ、誠一」
誠一は心外だと言わんばかりの顔をしている。一方理子は、真っ赤な顔のまま私たちに背をむけた。
そんな理子の後ろ姿を見て、私はさっきの言葉を思い出し誠一に聞いてみた。
「誠一は生徒会の役員に立候補しないの?」
「……ああ」
「ふーん。バカみたいに真面目な誠一なら真っ先にやりたがるかと思った」
「…バカみたい、は余計だ。それに興味がないわけではない」
誠一のこの言葉に、理子がピクリと反応し振り返る。
「じゃあどうしてなの…?誠一くんならきっと誰より適任だと思うんだけど…」
「…忙しいからだ。それより昼食なんだが、俺は用があるから食べててくれ」
「はいは~い。了解っす」
誠一はさっさと教室を出て行った。理子は名残惜しそうに後ろ姿を見ていたが、見えなくなると向き直りお弁当を取り出した。
いつからか、教室では私と理子と誠一の3人で過ごすことが当たり前のようになっている。私は不満だったけど、理子が嬉しそうだから文句は言わないようにしているけど…
「そういえばさぁ…理子はなんで誠一が好きなの?」
「…えっ……」
突然の私の言葉に、理子は箸でつかんでいた唐揚げを落としてしまう。顔を真っ赤にする理子がかわいくて、ますますわからなくなってくる。なんで誠一なの?
「だってさ、無愛想で生真面目で、冗談なんか通じない石頭で融通は利かないし」
「そんなことない!誠一くんは優しいよ!」
いつも大人しいな理子が、声を張る。私はびっくりして、静止してしまった。
「…私ね、入学式のとき、誠一くんに助けてもらったの」
「誠一に?」
「うん…男の人に囲まれて、どうしていいかわからなくなってるときに間に入ってくれて…」
「理子かわいいもんなぁ…私が男ならほっとかないもん」
「もう…彩音ったら」
それにしても…誠一らしい。昔から曲がったことが大嫌いだから…
「あはは、なんか想像できるなぁ。誠一のやつ、『嫌がっているのがわからないのか。なら教えてやろう』とか言ったんじゃないの?」
「……彩音、すごいね…その通り言ってたよ」
まぁ長年、幼馴染みやってるし、毎日そんな感じで怒られてるから…
理子は遠くを見ながら言葉を続けた。
「私、何度か男の人に囲まれることはあったけど、男の人に助けてもらったのは初めてだったから…」
「そうなの?」
「うん…誠一くんみたいな人、初めてだし……知れば知るほど惹かれてくの…」
そう言ってほほ笑んだ理子は、とっても大人びていて綺麗だった。
ふと不思議な感覚に陥った。
小さいころから知っている男のことを語られてるはずなのに、全く別の男の話のような気がしていた。