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「おっはよ。彩音」
「理子!おはよ~」
学校の門のところで声をかけてきたのは私の大親友の天野理子。かわいくて頭はいいし優しい、とにかく完璧な女の子。校内はもちろん、他校にもファンが多いらしい。
今日もサラサラのロングヘアをなびかせて歩く姿は、綺麗すぎて女の私でもほれぼれする。
「あ…誠一くんも、おはよう」
「おはよう。天野」
にっこりとほほ笑む理子とは対照的に、誠一は表情を変えることなくあいさつする。…無愛想だな、コイツ。
「相変わらずクールだね、誠一くん」
なるほどぉ。そういう見方もあるんだねぇ。
私がニヤニヤして2人を見ていると、視線に気づいた理子の顔が赤くなっていく。そんな顔がかわいくて、ついお節介したくなる。
理子は(どこがいいんだか)誠一に惹かれているらしいから。
「あ~…私、職員室に用があったんだった。先に教室行ってて」
「えっ…!彩音!?」
私はそれだけ言ってその場から走って離れた。理子は急に二人っきりにされて、どうしていいかわからず固まっている。
「彩音ったら…急に、ど…どうしたんだろうね…」
「…成績でも悪くて先生に呼ばれてるんだろ。気にせずに先行くか、天野」
「…うん!」
気を利かせて2人から離れたものの、私はどこに行ったらいいかわからなくなっていた。
職員室に用があるのは2人きりにさせるウソだから、今教室に行ったらおかしいし…かといって時間を適度につぶせる場所なんて…
「お!彩音じゃん?おっす」
「おっす!雄斗」
私が考えながらフラフラ廊下を歩いていたら、日向雄斗に会った。雄斗は同い年で、去年同じクラスだったのだ。
明るくてクラスのムードメーカー的存在。常に軽いノリで本音がなかなか見えないけど、実は面倒見がよく頼りになる。
「こんなとこで何してんだよ。教室あっちだろ?」
「雄斗だって。隣のクラスじゃん」
「俺は~…サボり」
雄斗は悪びれる様子もなく、ニッコリ笑って上を指さす。私は指の先を見上げる。
「上…?」
「そ。屋上。一緒に来るか?」
「え、屋上?立ち入り禁止でしょ?いいの?」
「ああ。ただし同罪ってことで内緒だからな!」
「へぇ~行きた…」
…。
私の心がもう授業をさぼって屋上に行く気満々になったところで、後ろから腕をつかまれた。一瞬にして嫌な空気が流れたのを、全身で感じた。
「…行かないよな?彩音」
「………誠一」
苦笑いしながら振り向くと、そこにいたのは…怖い顔した誠一。予想通り…というか、ちょっとピンチかも?
「彩音。職員室に用があるというのは嘘だったのか」
「あ…うん、まあね…」
「……だいたい彩音は行動が軽率すぎるんだ。もう少し自分の言動に責任を持って、日々の生活を見直」
「あー!わかった!ごめん!」
誠一の説教は長くなると周りを気にせず続けてしまうから、早めに私が謝るしかない。私が嫌々ながらも誠一に従ってる理由の一つだ。
「雄斗も、校則違反なことに彩音を誘わないでくれるか」
「お~怖。あいかわらず彩音の保護者なのかよ。ご苦労さん」
2人の間に沈黙が流れる…
この2人って、生真面目と自由奔放だから何かと意見がぶつかってしまうらしい。その度に火花を散らしていたので、今ではすっかり犬猿の仲。
「授業が始まってしまう。行くぞ。彩音」
「またね、彩音」
「あはは…またね、雄斗」
私は誠一に腕を引っ張られながら教室に戻ることに。
いつもこうだ。私がなにか規律を乱すようなことがあると、すぐに誠一が止めに来る。私の親以上に、先生以上に、私に干渉して世話を焼く。
確かに、誠一は間違ったことは言わないし、正しい道に私を戻そうとしてくれてる。だけど、私の意見なんて一切聞き入れてくれないから腹が立つ。
「…ねぇ誠一。私、屋上行ってみたいなぁ」
「立ち入り禁止の意味を彩音は知らないのか。なら教えてやろう」
「いえ。わかります。ごめんなさい」