裸の王子様がベッドにいたので悲鳴を上げました
朝、目を開けると、隣に全裸の若い男がいた。青空のような青い瞳にブロンドヘアの美しい男だけれど、美しければいいというものでもない。
「きゃぁああああぁああ!」
思わず叫んでしまった後で、後悔した。
「リアーナ様! どうされましたか!? リアーナ様!」
侍女やらなんやらがやってきて恥ずかしすぎるし、状況がまずわからない。私は服をちゃんと着ている。夜着だけど!
隣を見ると、肘をついた男が悪びれもせずニコニコとしていた。
「昨日の君、可愛くて素敵だったよ」
「知らないわよ! 何言ってるのよ、変態!」
本当に、朝になったら居ただけなのに知るはずがない。男は私の罵倒に怯むことなく楽しそうに笑っている。
「俺の大事なところも見たんだし、責任とってよ」
「だだだ、大事なところって!? そんなの見てないわ。お願いだからシーツから出て来ないでよ」
意外と逞しい胸は見えていて、もうどうしていいかわからない。
「シエルって名前をくれたじゃないか」
「!!!!」
なんてこと! 私はベッドから出ながら、そのことを思い出して頭を抱えた。
「あのネコちゃん!」
昨日、私は屋敷の庭でヨレヨレのネコを見つけて保護した。汚れていたけれど、とても可愛くて屋敷の中に連れ帰ったの。
確かにブロンドに見える変わった毛並みのネコだった。お風呂にも入れたし、性別の確認も……したわ……。
名前をつけるときに反応したり、水を怖がらなかったりの違和感はあったけれど、あまりの可愛さに考えるのを放棄してしまったのよね。
確かにネコだからとベッドで添い寝したのは私だ。
侍女が驚いて腰を抜かしていたところに、お父様もやってきた。
「どういうことだ…………」
呆然とした後に、男を見たお父様が何かに気づいたようで、表情が凍りついた。
「まさか…………! エリウス殿下、どうしてリアーナと?」
「娘さんとこういう仲だからさ、俺のこと匿ってよ」
「こういうもなにも、何もしてないわよ!」
慌てて否定したけれど、殿下は余裕の顔に見える。
「実際に何かあったかは関係ないよ。俺たちが一緒のベッドにいたのは事実なんだから」
お母様が、顔を青くしてよろめいていく。
「…………殿下、とりあえず服を着てください」
「服はないんだ。バルモント侯爵が貸してよ」
お父様は、額に手を置き頭を振ったあと、侍従に合図した。
そして、殿下が服を着たあと、執務室に移動することになった。私も慌てて着替えて同席させてもらうことにした。
お父様の服は丈が足らなくて、侍従が城に向かおうとしたところ、お父様が止めた。
「すぐに着れるものを、街着でいいから密かに用意したほうがいい。それから、屋敷内には緘口令を」
「承知いたしました」
そのやり取りを見た殿下は、小さく息を吐いて真面目な顔になり、「感謝する」と頭を下げた。
それを見て、あのふざけた態度は表面だけだったんだろうかと興味がわいた。
殿下が言うには、城で襲われたときに、魔法でネコの姿になって逃げてきたそうだ。戻ると裸なので、あまり使い勝手の良い魔法ではないとのこと。
エリウス殿下に縁のある家は先回りされている危険があると判断して、我が家に来たらしい。そして、執務室に行く前に私に捕まり、様子を見ることにしたということだった。
社交界にも出ていない私には知らないことだったけれど、お父様は中立派という派閥にいて、エリウス殿下の味方でも敵でもないそうだ。
どうやら第一王子のエリウス殿下と異母弟である第二王子で派閥があるらしい。
「エリウス殿下は我が屋敷で隠れているおつもりですか?」
「そういう訳にはいかないだろうな」
「お母上のご実家に行かれますか」
「祖父のセルモント前公爵に密かに連絡が取れれば助かるんだが」
お父様はため息をついたものの頷いた。
「それで、リアーナのことはどうするおつもりで?」
「優しくて可愛いからなぁ。汚れた俺を躊躇なく抱き上げるリアーナは天使のようだったよ。こんな子がお嫁さんだったらいいなぁと思ったんだけど」
「ネコだと思ったからよ!」
反射的に言ったけれど、じっと、こちらを見つめて殿下が微笑むと顔が熱くなる。可愛いって言われたわ。どうしましょう。
でも、ベッドの中で魔法を解かなくても良かったじゃない。思い出すと少し腹立たしい。
「リアーナは一人娘でね、外に出す気はないのですよ」
エリウス殿下はお父様と視線を合わせた。もしかしてこれが腹の探り合い?
私は婿を迎える予定だと聞いていたけれど、まだ婚約者はいなかった。
「殿下は王位継承権を放棄するおつもりですかな?」
「今はそれもいいかなと思っているよ。命あってこそだしね」
お父様はしばらく考えていたけれど、振り向くと、私に聞いてくれた。
「リアーナはどうしたい?」
私は驚いて、目を瞬いた。
「私が選べるのですか?」
お父様は深く頷いた。
「好きかどうかなんてわからないだろうから、助けたいかどうかでもいい。ここはリアーナが選んでいいんだよ」
「私は……」
エリウス殿下の表情を見ると、今までの軽い言葉とは違う不安そうな瞳が揺れていた。空の色だと思ったきれいな青い瞳。
「たまにネコになって愛でさせてくれたらいいですよ」
殿下を見捨てる選択は、私にはとてもできなかった。びっくりしたものの嫌悪があった訳でもない。怒ったけど嫌いじゃない。
意趣返しのつもりで笑顔を決めて言ったけれど、殿下は「もちろん」と甘く微笑んだ。
ネコになって撫で回されていいんだ……
「よろしくね。奥さん」
殿下が楽しそうに言うと、お父様があからさまに渋い顔をした。
「陛下には、責任の追求と婚約のお伺いを立てますが、まだ婚約者です」
「わかっているよ。でも、リアーナには好かれるように頑張るよ」
ネコと思って戯れただけなのに、どうしてそこまで気に入ったのか。殿下は射抜くような瞳と甘い顔で、こちらを見つめるのだった。
これ、逃げられないってやつなのかな。
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