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13.夏休みの精神科初診日

夏休みの朝。私はリュックを肩にかけ、玄関のドアを押した。

心臓が早鐘を打つ。病院の待合室、初めて会う医師、知らない空間――考えるだけで息が浅くなる。

でも、思い出す。担任とカウンセラーが、無理に行かせるわけではないと話していたこと。「選択肢として、自分で来ることができたら大丈夫」

手を小さく握りしめ、深呼吸する。怖いけれど、少しだけ勇気が湧いてくる。


待合室の椅子に座ると、周囲の静けさが心をぎゅっと締めつける。呼ばれるまでの間、心の中でぐるぐると考える。

――話せるだろうか。――過去のこと、母のこと、全部言わなきゃいけないの?――でも、言ったら少しでも楽になるかもしれない。

足をそっと揺らし、手のひらを膝の上で握る。

呼ばれる声がすると、息を飲み、ゆっくり立ち上がる。


診察室の椅子に座ると、向かいに柔らかな声の医師が微笑む。

「こんにちは、初めまして。精神科医の山口です。ここでは何でも話せます。無理に話す必要はありません。今日は、天宮さんの今の気持ちを少し教えてもらえますか」

私は小さくうなずく。声が震える。「……最近、学校で疲れます。母からも勉強のことでプレッシャーをかけられて」


山口はゆっくりうなずきながら、話を待つ。

「そうだったんですね。よく頑張ってきましたね。ほかにも、しんどくなることはありますか?」

私の胸の奥で、幼少期の記憶が押し寄せる。父の叩かれた日々、友達とうまくいかず学校に行けなかったこと。思い出すだけで息が苦しくなる。

でも、声に出してみる。「……小学校のとき、父に叩かれたりして……学校に行けなかったことがあります」

山口は優しく微笑み、声を低くして答える。

「そのことを話してくれてありがとう。ここでは安全ですし、無理に全部話す必要はありません。少しずつで大丈夫ですよ」

言葉を聞くたび、肩の力が少しずつ抜ける。涙が頬を伝い、息が少し楽になる感覚。話すことは怖かった。でも、誰かに受け止めてもらえる――その安心感が、静かに心を支えた。


帰り道。日の光がまぶしく、でも少し心は軽い。

手帳に小さく日記を書き留める。「話すことは怖かったけど、少し楽になったかも」

まだ全部が整理できたわけではない。でも、選択肢が一つ増えた。自分の気持ちを話しても大丈夫な場所がある――それだけで、少しだけ前に進める気がした。

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