不思議な貴族だ。
金貨がここでは使えないことを説明すると、彼女は絶望していた。
「そう落ち込むなって。」
「いえ、私の調査不足よ…」
楽しみにしていただろうし、どうにか食べさせてやりたい。しかし2人分のお金は持ち合わせていなかった。
「うーん、俺の分使うか?」
「それは申し訳ないわ!諦めて他の場所に行きましょう。」
すこし寂しそうな顔で言われた。
「あ、カルロ。何してんの?」
エルネがちょうどいいところに来てくれた。
シアをその場に待たせ、彼の元へ近づく。
「やあ。エルネ、良いところであったな!」
「え、なに?怖いって。」
「お前金持ちだったよな。よしよし、俺と遊ぼうじゃねえか。」
「は?え?」
エルネが俺の隣にいた人を見た。
「……もしかして、例の“お貴族サマ”関係か?」
(ッチ、勘のいい奴め。)
「ああ。」
彼女が肉串を食いたがってること、そしてお金が無いことを説明した。
「ってことで、お金貸してくれないか?」
「…うーん、」
「シアが食いたがってるんだ。」
「まあいいよ。」
「え、いいのか!?」
財布から銅貨を取り出して渡された。
「代わりに俺も着いて行ってもいい?」
「は?なんで。」
「面白そうだもん。」
「お前…」
言い合っても仕方がないので、エルネを連れて彼女の元へ戻る。
「シア、喜んでいいぞ。こいつ、エルネが肉串奢ってくれるんだと。」
「え、でも…」
「まあ私も食べたかったので。」
一瞬、エルネが敬語なことに引っかかった。
しかし、シアは貴族だ。平民が貴族に敬語を使うことは何もおかしくない。むしろ、自分がタメ口を使っていることがおかしいのだ。
(まあいいか。気にしたら負けだ。)
「代わりに、ご一緒してよろしいですか?」
(こいつ…)
「カルロが良ければ、もちろんよ!」
「…ああ、別にいいよ。」
「では、エルネさんも行きましょう!」
「ええ。光栄です。」
エルネがにこと爽やかに笑う。しかし、彼女には何も響いてなさそうだった。食い意地の方が大事なようだ。
「カルロも早く!お料理が逃げてしまうわよ!!」
「わかったわかった。肉串は動かないから。」
「っふは、」
3人並んで店に向かう。隣でエルネが吹き出している音が聞こえるが、無視して進んだ。
全員で肉串を頬張る。
シアは食べ方を覚えたのか迷うことなく、かぶりついていた。
「んん〜!!美味しい…」
(…何度見ても不思議な貴族だ。)
この姿だけを見ると、彼女はただ食いしん坊で無邪気な子供のように感じる。
「ねえ、彼女本当に貴族?」
「ああ。正真正銘の貴族だ。」
エルネも似たようなことを思ったようだ。
(シアが特殊なのか、それとも案外貴族は俺らと同じなのか。)
そんなことを考えながらも、料理を食べ切った。
「お腹いっぱいだわ…」
「私もです。」
「俺も満腹だ。」
場所を移動し、3人で木陰に座り込む。よそ風が涼しい。
「そういえば、エルネさん。私に敬語はいらないわよ。」
エルネから呆れた目線を送られるが、素知らぬ顔をする。
「じゃあ、俺もタメ口でいくよ。」
「ええ、よろしくね。エルネ」
「こちらこそ。」
「仲良くなってよかった、よかった。」
「カルロ、お前な…」
そうして、軽口を叩きながらも、のんびりと過ごした。
「そろそろ暗くなってきたし、帰るか。」
「だね。」
(そういえば、シアはどうやってここに来たんだ?)
気がつきたくない事実に全身からだらだらと汗が出る。
しかし、当の本人は平然としていた。
「お前家抜け出してきただろ。どうすんだよ。」
「大丈夫よ。隠し扉を使ってきたもの。」
「…全然大丈夫じゃないだろ。」
どや、と胸を張って言われるが、家を抜け出してきたことに変わりはない。おそらく今頃捜索が始まっているだろう。
「とりあえず、近くまで送るから憲兵には自分で行けよ…」
「っくく。家を抜け出してって。ふはは、あだっ」
(俺、また死の危険を犯すのか。)
爆笑している親友は、殴っておいた。
────
目を覚ますと、明らかに家ではない場所に転がされていた。
手首にひどい違和感があり、動かすことができなかった。
「なあ、どうしてこうなったんだ?」
「うーんわかんない。」
「どうしましょうね…」
周囲を見渡すと、十数人ほどの子供がいる。あちこちから泣き声が聞こえてくる。
どうやら誘拐されてしまったらしい。
(誘拐罪で捕まりそうになっていたのが懐かしいな。今は誘拐される側だ。)
部屋はジメジメとして不気味だし、空気が冷たく肌を刺してくる。できることなら、目を閉じて現実から逃げたかった。
(…俺、何回死にかけるんだろう。)
そうして黄昏ながらも、ここに来るまでの経緯を思い返した。
金貨1枚でいくらだろう…




