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第2話 口は災いの元

“お貴族様には関わるな。”


この国では常識だ。

お貴族様が現れたら、黙って頭を下げ続け、いなくなることを待つ。心の中で目をつけられないよう祈る、それが俺ら(平民)のできる最善だ。


(…父さん、ごめん。俺は先に逝くよ。)


「あ、あの……?」

目の前の子供を見る。おそらく、同い年くらいだろう。だが、優雅な仕草、白い肌にシミひとつない服、平民の俺とは違う。紛れもない貴族だ。


「あー、」

「シアと呼んでください」

すぐに俺を罰する、などは無さそうに見える。しかし、それも一瞬で覆る可能性が高い。


(逃げたい、けど逃げれないよなぁ。)

普通なら顔も覚えられないうちにとんずらする。が、ここは裏路地だ。道もわかって無さそうな子供を置いていくのは流石に夢見が悪い。おいて行ったところで、さっきと同じような輩に絡まれるのがオチだ。


「えーっと、ここが何処とか分かってます?」

「…ごめんなさい。逃げることに集中していたから、わからないの」

一筋の希望に賭けたが、とことん神は俺を見放すらしい。

(よし、逃げよう。夢見より、自分の首だ。)

貴族といても、処刑か誘拐のどちらかだ。まだ俺は、死にたくはない。

度重なる逃走劇に身体は限界だが、無視して足に力を入れた。




ふと、相手の手が震えているのが目に入る。先程の出来事が相当恐怖だったらしい。


もし、ここで見捨てて。

明日この路地で、あの子の死体が見つかったら。

(…ったく。)



「お貴族サマ、近い場所まで送っていくので、家の場所を聞いても?」

自分の世話焼きで見捨てられない性格に嫌気がさす。こんなボケっとしてる奴、放置しておけばいいものを。

(さっさと届けて、帰ろう。)


「……あ、家ですよね」

途端に目の光がなくなり、表情が硬くなる。

手の震えが前よりも酷くなり、全身がガタガタと震え出した。


「あー、そうか。」

(くっそ、絶対訳アリじゃねーか。冷静に考えて、この年の貴族がこんな場所に1人でいるわけがない。となると、家出か迷子。どっちにしても面倒でしかない。)


(やめだ、やめ。俺がいなくなっても、きっと誰かが助けるだろ。)





「じゃあ、街でも行くか」

(……ああ、終わった。)


「えっ?」

口が勝手に動いていた。


俺は、どこまでも人を見捨てられないらしい。



悔やんでも仕方がない。諦めることにした。

「…嫌だったらいいですけど。腹減ったし、なんか食いたいなって」

「い、いく!私もお腹が減りましたわ!!」

思ったよりも食いついた。


「じゃあ俺が道案内するんで、着いてきてください。」

「わ、わかりましたわッ!」

貴族相手にこんな態度でいいのかと思ったが、頭の隅に置いておくことにした。相手が気にしていないのなら、いいんだ。多分。


「…とりあえず、先にその見た目どうにかしましょうか。」

「ええ、そうですわね」

そのままの姿でいるとただのカモだ。変装することにした。

何か使えそうなものはないか、とゴミを漁る。麻袋や脱ぎ捨てられた服があったので、ありがたく拝借する。

(衛生面は最悪だが、少なくとも街で浮きはしないか…)


布がものすごく汚いので拒否されるかと思ったが、意外にもあっさりと受け入れていた。



「いいかー?」

「いいですわよ。これで正解かわかりませんが…」


振り返ると、ボロ布を纏った美人がいた。

(……おお、すごい。全く馴染んでいない。)

豚に真珠という言葉があるが、その真逆だった。美猫に切れ端を貼り付けたようだ。

動くと美しい所作が出て、より異質に見える。


最後にローブを深く被せる。顔が隠れた分、多少マシになった。


「こんな感じかしら…?」

「ああ。それなら目立ちはしないだ、と思います。」


「ふふ、敬語はやめてください」

思わず、普段の口調が出てしまう。しかし、目の前の彼女は気にしないようだ。



「んじゃあ、お言葉に甘えて」

「ええ。ではいきましょうか!」


(…このお貴族サマ、楽しんでるぞ。)

こっちは、面倒ごとが起きないことを祈っているというのに。これ以上、何か起きたらそろそろ俺が死ぬ。冗談抜きで。

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