口は災いの元
主人公の好きな食べ物は、りんごです。多分。
“お貴族様には関わるな。”
この国では常識だ。
お貴族様が現れたら、黙って頭を下げ続け、いなくなることを待つ。心の中で目をつけられないよう祈る、それが俺らのできる最善だ。
理由は単純。その場で斬殺される可能性があるからだ。目をつけられたが最後、親含め一家全員処刑となることも珍しくはない。
そして俺も、両親にずっと言い続けられてきた。お貴族様には関わるな、何があっても目を合わせてはいけないと。
(…父さん、俺その約束破っちまった。ごめん、先に逝くよ。)
「あ、あの……?」
目の前の子供を見る。おそらく、同い年くらいだろう。だが、優雅な仕草、白い肌にシミひとつない服、平民の俺とは違う。紛れもない貴族だ。
「あー、」
「シアと呼んでください。」
すぐに俺を罰する、などは無さそうに見える。しかし、それも一瞬で覆る可能性が高い。
普通なら顔も覚えられないうちにとんずらする。が、ここは裏路地だ。道もわかって無さそうな子供を置いていくのは流石に夢見が悪い。おいて行ったところで、さっきと同じような輩に絡まれるのがオチだ。
(逃げたい、けど逃げれないよなぁ。)
「えーっと、ここが何処とか分かってます?」
「…ごめんなさい。逃げることに集中していたから、わからないの。」
一筋の希望に賭けたが、とことん神は俺を見放すらしい。
(よし、逃げよう。夢見より、自分の首だ。)
貴族といても、処刑か誘拐のどちらかだ。まだ俺は、死にたくはない。
度重なる逃走劇に身体は限界だが、無視して足に力を入れた。
ふと、お貴族様の手が震えているのが目に入る。
先ほどの出来事が相当怖かったらしい。
(ああ、ったく!)
「お貴族サマ、近い場所まで送っていくので、家の場所を聞いても?」
自分の世話焼きで見捨てられない性格に嫌気がさす。こんなボケっとしてる奴、放置しておけばいいものを。
(さっさと届けて、逃げよう。)
「……あ、家ですよね。」
途端にお貴族サマの目が暗くなり、表情が硬くなる。
手の震えが前よりも酷くなり、全身がガタガタと震え出した。
「あー、そうか。」
(くっそ、絶対訳アリじゃねーか。冷静に考えて、この年の貴族がこんな場所に1人でいるわけがない。となると、家出か迷子。どっちにしても面倒だ。)
(…逃げよう。たった1人誘拐されるだけだ。自分の命の方が重い。)
「じゃあ、街でも行くか。」
「えっ?」
口が勝手に動いていた。
(終わった…)
俺は、どこまでも人を見捨てられないらしい。
悔やんでも仕方がない。諦めることにした。
「…嫌だったらいいですけど。腹減ったし、なんか食いたいなって。」
「い、いく!私もお腹が減りましたわ!!」
思ったよりも食いついた。
「じゃあ俺が道案内するんで、着いてきてください。」
「わ、わかりましたわッ!」
貴族にこんな態度でいいのかと思ったが、頭の隅に置いておくことにした。相手が気にしていないのなら、いいんだ。多分。
「…とりあえず、先にその見た目どうにかしましょうか。」
「ええ、そうですわね。」
そのままの姿でいるとただのカモなため、変装することにした。
何か使えそうなものはないか、とゴミを漁る。麻袋や脱ぎ捨てられた服があった。ありがたく拝借する。
(衛生面は最悪だが、少なくとも街で浮きはしないか…)
布がものすごく汚いので拒否されるかと思ったが、意外にもあっさりと受け入れていた。
「いいかー?」
「いいですわよ。これで正解かわかりませんが…」
振り返ると、ボロ布を纏った美人がいた。
(……おお、すごい。全く馴染んでいない。)
豚に真珠という言葉があるが、その真逆だった。美猫に切れ端を貼り付けたようだ。
動くと美しい所作が出て、より異質に見える。
最後にローブを深く被せる。顔が隠れた分、多少マシになった。
「こんな感じかしら…?」
「ああ。それなら目立ちはしないだ、と思います。」
「ふふ、敬語はやめてください。」
思わず、普段の口調が出てしまう。しかし、目の前のお貴族様は気にしないようだ。
「んじゃあ、お言葉に甘えて。」
「ええ。ではいきましょうか!」
(…このお貴族サマ、楽しんでるぞ。)
こっちは、面倒ごとが起きないことを祈っているというのに。これ以上、何か起きたらそろそろ俺が死ぬ。冗談抜きで。
クラゲ「りんごは好き?」
カルロ「いや、別に。」
クラゲ「え、」
カルロ「え?」




