第11話 涙を禁じ得ない。
部屋の隅から、男たちの断末魔が響く。 少年の楽しげな声も混じって聞こえる。
(犯人達も可哀想だよなぁ、よりによってエルネの尋問を…)
彼には事前に好きなだけやっていいと伝えているため、男達は目も当てられない状態になるだろう。心の中で静かに同情する。同じ魔の手にかかった身としては犯人達に涙を禁じ得ない。
数十分もしないうちに叫び声が聞こえなくなり、大人の啜り泣く声だけが響く。
(お、終わったか。)
全身血だらけのエルネが顔を出した。
「こっちはいけたよー」
「お前な…やりすぎだろ」
「あれ、時間かけすぎ?」
「なわけ。相手が可哀想だろ」
「ええ、いいじゃん。犯罪者なんだから」
「…で、結果は?」
「はいはい。ここから出口までの道順と組織構成、見張りの位置と数まではわかったよ」
「それ全部じゃねえか」
「いや、バックにいる貴族まではわからなかったよ」
残念、と心底悲しそうに肩を落とす。
(知っているのに吐かせられない、なんてことはないだろう。おそらく男達も知らなかったのか。)
「別にいいだろ。俺らが知っても意味ねえし」
「そうだけど…」
「てか、道順とか見張りの人数聞いてんだろ。さっさと話せ」
「全く、人使いが粗いんだから」
エルネの話を聞くと、
ここから廊下を通り抜け、階段を上がれば、すぐに地上に戻れる。
見張は廊下の突き当たりに1人と階段を登った先に2人。傭兵などの戦える人がやってるため、気をつけた方がいい。
──ということらしい。
「それなら意外とすぐ出れそうだな」
「いや、そうもいかないんだ。階段を上がった先は、誘拐犯たちのアジトらしい。表向きは酒場の違法カジノだって」
「え…カジノ自体にも用心棒はいる、よな?」
「多分ね。だから、安心はできない」
今回の誘拐は裏カジノを経営している組織だろう。
(あー、脱出できる未来が見えねぇ。)
「けど、どうにかして出るしかないよなぁ…」
「あらエルネさん。終わったのね、お疲れ様」
今だに先ほどの光景が目に焼き付いてるのか、若干距離がある。
「ありがと。あ、そうだ。これシアは分かる?」
エルネがナイフを取り出す。男達が持っていたものらしい。
「っ、!」
「やっぱり分かるか。カルロもよく見て」
指されたナイフには、柄に細かい紋章が彫られていた。
(これは…貴族の家紋か?)
「それは、マルティエ子爵のものよ。」
「バックについている貴族はその人かぁ」
「らしいわね」
(流石にエルネも誰の物までかは分からなかったのか。)
「ありがと、ごめんね。辛いもの見せちゃって」
「ううん、そんなことないわ。役に立てたなら何より」
(結局、後ろにいる貴族まで特定しやがったな…)
「とりあえず、ナイフは3本あったから渡しておくね」
「助かる」
「ええ、ありがとう」
その後、エルネは水差しで血を最低限洗い流してもらい、他の子供にも声をかけて準備をする。
「よし、じゃあ出発するか」
「「「「おー!」」」」
(なんでこんなテンション高いんだよ…)
ぞろぞろと狭い檻を抜け、廊下に出る。
「声を出すなよ」
「カルロ、見えてきた」
「あいつか。」
いくらか進むと人影が見えてきた。廊下が暗いため、事前に知らなければ分からなかっただろう。
事前の打ち合わせ通り、シアに頼む。
「頼んだ」
「ええ。任せて」
彼女が深呼吸し、そっと口を開ける。
『お兄さん、お兄さん。ここはどこ?』
シアが細く幼い声で話す。空間が狭いせいか、音が反響して不気味だ。
「っ!?誰だッ!」
『ふふ、違うよ。こっちこっち。』
水で濡らしてパン屑を、男の首元に向かって投げつける。
冷たい感触に、男が悲鳴を上げた。
「うわあ!!」
「どこだ!?どこにいる!?」
『こっちだってば、』
再度、水につけたパンを投げる。
「ひっ!!」
『ねえ、どうして?どうして私はこんな目にあったの?』
「し、しらない!!」
『うそだ。』
『うそだ、うそだ、うそだ。ぜんぶ、ぜんぶお前のせいだ!!』
「い、いや、違う!
謝る!!謝るから!!」
パニックになっている男に背後から忍びよる。
ナイフを取り出し、背中に突きつけた。
「う、うわあああ出たああああ」
相手が驚いて腰を抜かしてしまった。
(情けな…)
呆れつつも手早く拘束する。
「みんな、いけたぞ」
「一瞬だったわね」
「シアもありがとな、助かったよ」
「そんなことないわ。楽しかったもの」
(どこか顔が暗かったが、今は楽しそうで良かった。)
はじめは離れるつもりだったのに、いつの間にかシアと笑い会うのが当たり前になっていた。
(…考えても仕方がない。今は誘拐の解決が最優先だ。)
そうして、向き合いたくのない現実に目を逸らした。
音を立てないよう慎重に階段を上がる。
「あっ、見えてきたわ」
「だな」
情報通り、男2人が階段の先に立っていた。その後ろには古びた扉がある。おそらくそこを抜けると裏カジノに繋がっているのだろう。
「さて、一芝居打つか。」
困ったような泣きそうな顔をして彼らの元に向かう。
「あの…ここどこですか?」
「は?なんで子供がここにいるんだ」
兵士たちが俺に気づき、緊張感が走る。
「なんか、目が覚めたら檻の中にいて、どうやって帰ればいいですか?」
男達が何かを察し、顰めっ面を笑顔にした。
俺が状況を理解できていないと考えたのだろう。強引に押し切って牢に返そうとする。
「いや、君はあの部屋にいなさい。そうしたらすぐに親が迎えに来るからな」
「えっ?そうなんですか?」
「ほら、お兄さんが送ってってやるから」
1人が俺に手を伸ばした瞬間、ナイフを取り出す。
「なら、地上まで案内してもらおうか」
「はっ?!お前!!」
首元に突きつけ、動きを封じる。
「おい、ガキ!その刃物をおろせ!!」
もう1人がそれに気づいたのか、剣を取り出してくる。
しかし、背後にエルネがいる。
「お兄さんも動いたら死ぬよ?」
「くっ、お前らぁ!!」
他の子供にも手伝ってもらい、2人を縛る。
そいつらは階段の隅に転がしておいた。
(…よし。順調だ。)
今のところ問題なく作戦も成功している。
だが、ここからはそれも失敗に終わる可能性が高い。裏カジノを含め、警備の目を掻い潜るためには多少無茶をする必要があった。
「今からが本番だ。心積りは大丈夫か?」
「もちろん。」
「ええ、万全よ。」
(…みんな行けそうだな。)
震える手に力を込め、深く深呼吸をした。
大きく息を吸い、思いっきり叫ぶ。
『大変だ!!!子供が脱走したぞ!!』
そうして、脱走劇のクライマックスが始まった。
次の更新は明日19:30です。
幽霊…ひっ




