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第1話 今日は最悪だ。



(しまった。完全に迷子だ…)


通ったことのない道を適当に進む。

見たこともない景色にいくらか進んだところで、人影を見つけた。


「お、良かった。」

道を訪ねようと近づいた。


「や、やめて…こないで!」

「お嬢ちゃん、そう言わずにお兄さんたちと遊ぼう?」

ローブを深く被った小さい子供が、ナイフを持った男2人に詰め寄られている。


(うげ、誘拐中か。面倒なことに遭ったな…逃げるか。)

治安の悪い場所では犯罪行為は日常茶飯事だ。毎回助けに入っていたら、命がいくつあっても足りはしない。


静かにその場を離れていく。幸い相手はまだ俺に気がついていなかった。

(よかった。このまま行けば逃げられそうだ…)



急に、子供がこっちに向かって叫んだ。

「あ!た、助けて!」



「「「は?」」」


誘拐犯と俺の声が重なる。




一斉に男たちが振り向いた。


(…まずい。バレた。)

すぐさま体を翻し、男達と反対方向へ逃げ出した。


─────





「カルロ!お前の母ちゃん浮気して出て行ったんだろ?」

「詳しく聞かしてくれよ。なあ、」


にやにやと家庭の事情に突っ込んでくるコイツらを無視して通り過ぎる。俺のことを省いて遊んでくるクズだ。


「おい無視すんなよ!」

「うるせえ、黙れ」

イラついて、相手の1人を殴ってしまった。

多勢に無勢。同年代の中では強いとはいえ、多数相手は勝てる見込みもない。

(やってられっか。逃げるが勝ちだ。)

「あっ!まて!!」

ぼけっと突っ立っているやつの横を素早く抜け、脇の小道へ走る。

裏路地に入り、無茶苦茶に曲がっていく。

次第に、後ろから叫ぶ声は遠くなっていった。


「っ、はあ、」

狭く複雑な裏路地では、追いかけることも見つけることも難しい。アイツらも引き返したようだ。

ただ、安心もしてられない。路の出口で待ち伏せをしているはずだ。


(ここで時間を潰すか…)

治安も悪く薄暗い場所で過ごすのは些か不安だが、集団で殴られるよりはずっと良い。



そんなことを考えてふらふらと歩いていた。

その結果、誘拐現場に出くわしてしまった。



(…まずい。バレた。)

すぐさま体を翻し、男達と反対方向へ逃げ出す。

しかし全力で逃げたが必死の抵抗も虚しく、相手に追い付かれてしまった。


「すまんな、見逃すわけにはいかないんだ。坊主、恨まないでくれよ」

すぐに壁際まで追い詰められ、逃げ場もなくなる。



ナイフを持った男が、ジリジリと近づいてくる。

相手は大人だ。10歳の自分では勝ちようがない。


(何か、何かないか?)

ふと近くの壁が目に入る。一部が崩れ、子供1人分の穴ができていた。

(…一か八かだ。)

少し距離はあるがそこに入れば、相手は追ってこれないだろう。頭の中で逃げる段取りを立てる。




横にさっきの子供がいた。酷く怯えているようで身体が震えている。

このままだと、すぐに男に捕まってしまうだろう。

(…ったく。あーもう!ふざけんな!!)




近くにあった石を掴み、男の顔目掛けて投げつける。


「はっ、いい加減諦めろ。」

「うるせえ!」



軽々と避けられる。

しかし、石を避けた際相手の視界から一瞬だけ俺が外れた。



その間に砂を掴み、投げる。


「い、っだ!あんのクソガキ!!」

「子供1人に何手こずってんだ!」


もろに目眩しを受け、目の前の男が痛みに悶える。もう1人もそちらに意識が行ったため、完全に俺たちから目が離れた。


「今のうちだ。いくぞ!!」


震えているローブの手を掴んだ。

穴のある壁に向かって全力で走る。後ろから追いかけてくる気配がするが、振り向いている余裕はなかった。

「待て!!」


(穴は小さい。入ったらこっちのもんだ…!)


「先入れ!早く!!」

壁につき、先にローブの子供を行かせた。

自分も後から穴に滑り込む。


しかし、男も逃がさんと手を伸ばした。



(間に合え、間に合え、間に合え!!)


ギリギリで男の手が届く前に穴を通り抜けた。





そこからは無我夢中で逃げた。怒号がしていたが、今はもう聞こえない。おそらく振り切れたのだろう。


「っ、生きてるか?」

「…っえ、ええ」

2人で、ぜえぜえと地面に座り込む。どうやらあの子供の腕を掴んだ状態で走ったらしい。


「あり、がとう。助けて、くださって」

息も絶え絶えてお礼を言われる。ローブがずり落ちて顔が見えた。


「……は、」

ローブで隠れていた部分がずれ、

しみのない服に日焼けのない白い肌が現れる。薄汚れた裏路地とは不釣り合いでどこか異質だった。



息をあげながらも、お淑やかに告げる。

「…申し、遅れました。私は、アナスタシア・ド・ルイゼンフォーグと申します。」


(ああ、くっそ…今日は最悪だ。)



“お貴族様になんて関わるものではない。”

それは、俺たち平民が親から1番最初に教わることだ。


もし貴族に目をつけられたら、平民は為す術もなく殺される。

新連載よろしくお願いします!

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