エピローグ【コーヒー】
いつもの朝が始まる。
店内のテレビでは、世間を騒がせた思想犯が逮捕されたというニュースが淡々と流れていた。
場所はいつものファミレス。子供たちが賑やかに走り回り、家族連れの笑い声が店内に満ちている。
「昨日のプロレスでさぁ、あの技が決まった瞬間……」
「あんた、いつもプロレス! 言っとくけど女の子にする話じゃないからね!」
アンナの呆れ顔も、もはや日常の景色だ。
手元のコーヒーは、いつの間にかすっかりぬるくなっていた。
「裕って、いつもブラックだよね。なんで?」
「苦い方が美味いだろ」
「ふーん」
アンナが不意に、少しだけ真面目なトーンで聞いてきた。
「ねぇ。あの時……なんで躊躇ったの?」
「陽平のことか」
「うん」
俺はぬるくなった液体を見つめ、少し間を置いてから答えた。
「……いつの間にか、『人殺し』に慣れてたんだなって思ったんだ」
「……そっか」
しばらく言葉が途切れた。
「迷った時に、アンナが撃ってくれた。助かったよ」
「それが相棒ってもんでしょ?」
「……だな」
その時、無線に高槻からの連絡が入る。
『事件だ。出動しろ』
「了解」
短く答えて通信を切る。
窓の外は、雲一つない青空だった。
銃声も、爆発も、悲鳴もない。
最近そういう喧騒が減った気がする。
この平和が、いつまで続くかなんて、誰にもわからない。
俺は、残った苦味を喉の奥に流し込む。
苦い。
けれど、それが嫌いじゃない。
俺は俺の選んだ正義のために、
今日も引き金を引く。




