第78話:【幕引きの残り火】
陽平の身体が、スローモーションのようにゆっくりと崩れ落ちる。
アスファルトに横たわり、空を仰いだ彼は、かすかに白い息を吐き出した。
「……ごめんな……」
その言葉を最後に、身体から力が抜ける。
かつて周囲を焼き尽くさんと猛威を振るったその瞳が、再び光を宿すことはなかった。
倒れ伏した陽平を、リンは一瞬だけ、無機質な眼差しで見下ろした。
怒りも、悲しみも、あるいは安堵さえも読み取れない。ただ、そこには深い虚無だけが横たわっているように見えた。
やがて、リンはゆっくりと視線を俺へと移した。
周囲を警察官たちが取り囲み、無数の銃口が彼女に向けられる中、彼女は俺にだけ聞こえるような小さな声で呟いた。
「……私、この人と逃げたかったのよ」
それが本心だったのか、それとも彼女なりの最後の手向けだったのかはわからない。
彼女はそれ以上、何も語らなかった。
俺は震える手で腰から手錠を抜き、彼女の細い手首にかけた。
冷たい金属の音が、この逃走劇の終わりを告げる。
「私を逮捕しても、第二、第三の私が現れるわよ。
その時が来たら……脱獄でもしようかしら」
パトカーの誘導灯が彼女の横顔を赤く照らす。
リンはふっと口角を上げ、挑発するように、あるいは慈しむように微笑んだ。
「……冗談よ」
護送車のドアが開く。
乗り込む直前、俺に声をかけた。
「またね、お巡りさん」
遠ざかっていくサイレンの音を聞きながら、俺はただ立ち尽くしていた。
隣では、アンナがまだ熱の残る銃口を下げ、静かに夜の闇を見つめていた。




