第77話:【執念の弾丸】
「ごふっ……!」
鮮血を撒き散らし、俺の身体はガクガクと痙攣を始めた。
心臓を貫かれたか? ナノマシン兵にとって、そこは唯一にして絶対の弱点だ。
だが、意識はまだ途切れていない。身体は動く。俺は残った力を振り絞り、目の前の高品をがっしりと掴んで固定した。
「……アンナ!」
「おっけー!」
アンナは躊躇なく、至近距離から拳銃を乱射した。
肉を穿つ鈍い音が連続し、高品の身体が瞬く間に蜂の巣へと変わっていく。
「ば、バカな……。心臓を、貫いたはずなのに……」
驚愕に目を見開いたまま、高品はその場に崩れ落ちた。
「裕! 大丈夫!?」
俺は胸に突き刺さったナイフを強引に引き抜いた。激しい出血を伴うが、ナノマシンが猛烈な勢いで増殖し、傷口をみるみる塞いでいく。
「ごほっ! ごほっ……!」
俺は膝をつき、肺に残った血を吐き出した。
「わからんけど、生きてるみたいだ……」
「……心臓から、わずかにズレてたのかな?」
「それより、リンだ!」
時間はかかったが、まだ間に合うか。
俺とアンナは、リンたちが消えた方向へと走り出した。
「ゆ、裕……っ! 速い……待って!」
俺の速度に、アンナがついてこれなくなる。だが俺は振り返らず、彼女を置いて突き進んだ。
今、ここを逃せば、もう二度と追いつけない。そんな確信に近い予感があった。
――視界の開けた先、バイクで走り去ろうとするリンたちの背中が見えた。
俺は走りながら、逃げるバイクの背中に向けて狙い澄まし、マグナム弾を放った。
「当たれぇ!!」
もはや運を天に任せた一撃だった。
ドゴォン!
弾丸はバイクの後輪へ直撃した。高速で走っていた分、車体は激しくバランスを崩し、リンたちはアスファルトの上を猛烈な勢いで転倒していった。
「ゆ、裕〜! 待ってってば!」
遅れてアンナの声が届く。
「早く追うぞ!」
俺は再び駆け出し、倒れたリンたちの元へと肉薄する。
「リンッ! もう逃げられないぞ!」
陽平を抱き起こそうとしているリンに向け、俺は拳銃を突きつけた。
「またなの? しつこい男は嫌われるわよ」
リンは不敵に微笑むが、その包囲網を完成させるように地元警察たちが現れた。
陽平がふらつきながら、リンを庇うようにして前に立つ。
「陽平! 動くな! 撃つぞ!」
警告を無視し、陽平がゆっくりと自らのサングラスに手をかけた。
まただ。あの目を見たら、誰もが燃え尽きてしまう……!
『人殺し』
不意に、かつてリンに投げつけられた言葉が脳裏に響く。
焼き付くような恐怖と罪悪感が指先を強張らせ、引き金を引くのを躊躇わせた。
陽平はその隙を見逃さず、今まさにサングラスを外そうとする――。
――タァンッ!
一発の銃声が響き渡った。
陽平の胸に、赤い穴が空く。
音のした方を振り向くと、そこにはアンナが拳銃を構えたまま立ち尽くしていた。
「裕、今……躊躇ったでしょ?」
アンナの声は冷たく、そして静かだった。
彼女の指摘通りだった。引き金に指をかけながら動けなかった俺の代わりに、彼女が迷わず撃ち抜いたのだ。




