第76話:【嫌がらせ】
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速い――!
思考が追いつくより先に、両目を裂かれた。
視界が暗転し、怯んだ隙に喉元を深く掻き切られる。
「がはっ……!」
気道に血が流れ込み、まともな呼吸さえ許されない。
「裕! くそぉっ!」
アンナが叫び、拳銃を連射する。だが、乾いた銃声が響くばかりで、弾丸は一度も肉を捉えない。
「何こいつ! 構えてる間に避けてる……!」
高品のターゲットがアンナに切り替わる。彼女は俺のような再生力を持っていない。
「アンナ!」
俺は銃口を向けるが、高品は壁を蹴り、軽々と二階の窓枠に張り付いた。重力を無視したその動きは、まるで巨大な蜘蛛のようだ。
「アンナ! 背中合わせだ!」
「うん!」
俺たちは互いの死角を預け合う。この戦法を破れた敵は今までいなかった。
だが、高品は嘲笑うかのようにアンナの頭を蹴りつけ、体勢を崩した俺の心臓めがけ、容赦なくナイフを突き立てる。
俺は咄嗟に左の手のひらで刃を受け止め、そのまま強引に頭突きを見舞った。
しかし、奴はバク宙でひらりと回避してみせる。
「二対一は忙しいけど、燃えるねぇ……!」
高品が浮かべたのは、底の知れない狂気的な笑みだ。
「……なんでリンを守る!?」
引き金を引き続けながら、俺は問い詰める。
「面白そうだからさ!」
軽薄な答えと共に、一瞬で距離を詰められた。大腿動脈を深く切りつけられ、地面が鮮血に染まる。だが、俺の体内のナノマシンがすぐさま傷口を塞ぎ始める。
「へぇ、回復が早いね! じゃあ、これはどうかな?」
高品の手が、再び俺の喉を捉えた。
突き刺されたナイフに、さっきとは違う違和感を覚える。ナイフには「返し」がついており、さらに根元から折れて喉の中に埋まる構造になっていた。
「ぐっ……! が、がはっ!」
「裕! このっ……!」
アンナが必死に銃撃で高品を牽制している間、俺は喉の奥に異物が埋まった激痛と呼吸困難に、床でのたうち回った。
(痛い、苦しい……!)
ナノマシンが異物を押し出すように増殖し、ようやく喉からナイフの破片を吐き出す。
「へぇー、そうやって回復するんだ。面白いね」
「ごほっ……こいつ……!」
反撃に転じようとしたが、無情な音が響く。
——カチッ。
弾切れだ。俺は仕方なく予備のナイフを抜き放つ。
「ナイフ使いにナイフで対抗? ちょっと僕を舐めすぎじゃない?」
高品は一瞬で俺の背後に回り込み、三度、喉を切り裂いた。
(またか……! こいつ、喉をやられると再生中が一番苦しいのを知ってやがる!)
「そろそろ飽きてきたよ。心臓を刺してトドメだ」
抵抗する間も与えられなかった。
死神の冷徹な宣告と共に、高品のナイフが易々と俺の胸を貫いた。




