第74話:【銃の重さ】
俺は震える手で無線を掴み、アキラへと連絡を入れた。
「有坂を倒した……。だが、リンを逃がした」
『そうか。……こっちの戦線も、リンが離脱してから指揮系統が崩れつつある。劉とヒロシが暴れ回ってくれているおかげで、何とか持ちこたえている』
「了解。俺たちはこのままリンを追う。……もう、かなり遠くまで逃げられたかもしれないが」
『ああ。気をつけろ』
通信が切れる。
「行くぞ、アンナ」
「……うん」
返事は短く、どこか重かった。
「どうした?」
「……まだ終わってない気がする」
「何が?」
「わからない。でも……“終わった感じ”がしない」
(やめろ、そういうこと言うな)
俺は心の中で吐き捨て、アクセルを踏み込んだ。
◇
夕闇に沈みかけた街を走りながら、俺の脳裏にはリンの言葉がこびりついて離れなかった。
『人殺し』
その言葉は、銃声よりも深く耳に残った。
いつの間にか、俺は引き金を引くことに慣れてしまっていた。
有坂は怪物だった。
だが、最期に聞こえたあの悲鳴は、間違いなく「人間」のものだった。
あの中にあった無数の意識を、俺が、俺たちが終わらせた。
(俺は……次も、迷わずに引き金を引けるのか)
いや、引かなければならない。
それが正義でなくても。
たとえ、誰かの正義を踏み潰すことになっても。
リンは思想を持ち、人を動かす。
放置すれば、また悲劇が生まれる。
必ず、逮捕する。
だが――逮捕したところで、彼女を本当に止められるのか。
司法をすり抜け、再び姿を現す未来が、容易に想像できた。
そして、陽平。
視界に入っただけで対象を焼き尽くす、あの能力。
もし完全に光を失っても、彼の「殺意」は消えるのだろうか。
薄暗い道路の先を見つめながら、俺は腰のマグナムに触れた。
そこにあったのは、銃の重さだけじゃない。
――今まで奪ってきた、無数の命の重さだった。




