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第72話:【異形の怪物】

「アンナ! とりあえず車まで走るぞ! 今の武器じゃダメだ!」


「……殺すの?」


「……こいつを野放しにしたら、もっと人が死ぬ」


 俺は答えるのを一瞬躊躇った。リンに突きつけられた「人殺し」という言葉が、呪いのように胸に突き刺さっている。だが、今は目の前の怪物を止めなければ全滅だ。


 急いで出口まで走ったが、有坂は異常に速かった。背後から襟首を掴まれ、そのまま壁に叩きつけられる。コンクリートを突き抜け、隣の部屋まで体がめり込んだ。


「ぐあっ!」


 尚も有坂は無機質な足取りで近づいて来る。俺を再び掴もうとするその手を、アンナの対物ライフルが至近距離で吹き飛ばした。


「裕! 今のうちに!」


 有坂は標的をアンナに変え、爆発的な踏み込みで走り出す。俺は背後から有坂の膝裏をマグナムで撃ち抜いた。関節を砕かれ、有坂は派手に転倒する。


「アンナ! レールガンだ! 車まで走れ!」


「う、うん!」


 アンナは必死の形相で外へ走っていく。


(今度は、俺が逃げる番だ……!)


 有坂の欠損した箇所からは、物凄い勢いで肉が盛り上がり、瞬く間に再生していく。その姿はもう、生物としての限界を超えていた。


 猛然と迫る有坂を躱しながら出口を目指すが、奴は壁を蹴り、天井を蹴り、重力を無視したような動きで縦横無尽に距離を詰めてくる。


 俺は振り向きざま、有坂の頭部へ発砲。有坂は空中で身を翻し、俺の目の前へ着地した。


 一か八か、俺は有坂をカニバサミで転がし、ヒールホールドを仕掛けた。だが――。


(硬すぎる……折れない!)


 有坂は残った方の足で俺の胸を蹴り飛ばし、容易に脱出した。俺は壁まで吹き飛び、背後のコンクリートに巨大なヒビが入る。


『裕! 車まで着いたよ! レールガン撃つから、早く出てきて!』


「わかった……けど、こいつが出してくれない! なんとか向かう!」


 通信を終える間もなく、有坂の体当たりを喰らい、壁が完全に崩落した。


「ぐふっ!」


 内臓が震え、鮮血を吐き出す。ダメージで手が震え、意識が遠のきかけるが、必死にマグナムを構え、有坂の顔面へ連射した。


 弾丸が有坂の右目を直撃し、怪物が初めて明確に怯んだ。


「今のうちだ!」


 俺は這いずるようにして出口まで走り抜けた。背後から有坂の強烈な蹴りが背中に食い込んだが、その衝撃を利用するようにして外へ飛び出す。


「くらえー!」


 待機していたアンナが、レールガンのトリガーを引いた。


 目も眩むような閃光が一直線に有坂の心臓を貫いた。

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