第71話:【人殺し】
次の戦場へ装甲車を走らせていたその時、隣で索敵していたアンナが叫んだ。
「裕! 待って! あれ……リンと陽平じゃない!?」
視線の先――雑居ビルの影に、見覚えのある二人の姿があった。
「見つけたぞ……!」
俺はアクセルを蹴り込み、ビルの正面へ急行した。
「行くぞ、アンナ!」
「うん!」
拳銃を抜き、慎重に建物内へと足を踏み入れる。アンナも巨大な対物ライフルを背負い、護身用の拳銃を構えて続く。
仕掛けられた罠はない。
吹き抜けのロビーに進んだ先に、彼らはいた。
「リンッ!!」
俺とアンナは一斉に銃口を向ける。リンは静かに、ゆっくりとこちらを振り返った。
「あら、誰かと思えば『人殺し』じゃない。また会ったわね」
「人殺し……?」
「自覚がないのね。あなた、今日までに何人の同胞を殺したの? まさかナノマシン兵やオリジナルは『人』に含まない、なんて言わないわよね」
その言葉に、指先が微かに震えた。俺が今まで「任務」として引き金を引いてきた相手。彼らにも命があり、意志があった。
言葉に詰まり、銃口が下がりそうになった瞬間、アンナが叫んだ。
「裕! こいつだっていっぱい殺してるよ!」
だが、そのアンナの声も、どこか自信なげに震えていた。
「心外ね。私がいつ誰を殺したというの? 少なくとも、私自身が直接手を下したことは一度もないわ」
「……黙れ。逮捕する」
俺は必死に声を絞り出すが、リンは動じない。
「ここは見逃してくれないかしら? 私たちは先を急ぐの。……撃ちたければどうぞ、ご自由に」
「待て! お前の真の目的は何なんだ!?」
「言ったはずよ。オリジナルに人権を与えたいだけ。実験動物として扱われる現状は、あなたも知っているでしょう? ……そろそろ、その物騒なものを下ろしてくれないかしら」
「裕、う……撃っていいの?」
アンナが困惑したように俺を見る。
「撃つなら早くしなさい。撃たないなら、もう行くわよ」
リンが背を向けようとしたその時、不気味な地鳴りが足元から響いた。
「あら……もう遅かったようね。彼と遊んでてちょうだい。行くわよ、陽平」
「ま、待て!」
ドゴォォォン!!
凄まじい衝撃と共に、コンクリートの床を突き破って「それ」が現れた。土塗れの、異形と化した有坂だ。
「……目標、補足」
感情を失った、地這うようなしゃがれ声。
俺は即座にマグナムを数発叩き込んだが、有坂は少し体勢を崩しただけで、止まることなく俺たちの方へ歩みを進めてきた。




