第69話:束の間
朝を迎え、昨日の出来事がすべて質の悪い悪夢だったのではないかと思いたかった。
だが、念のためにと火炎放射器を抱えて外に出れば、無残に焼けた寮の残骸と、有坂が掘り進んだ生々しい穴が視界に飛び込んでくる。それが残酷なまでの「現実」だった。
アンナも重い対物ライフルを背負って外に出てきた。考えることは同じらしい。
「夢じゃなかったんだね……」
「ああ、現実だ。……なあ、葵のお見舞いに行かないか?」
「うん! 行こう!」
◇
葵の病室へ向かうと、そこには先客がいた。アキラだ。彼はすでに意識を取り戻していた葵と、親しげに言葉を交わしていた。
「よう、お前ら。昨日、寮が有坂に襲われたんだって?」
「ああ、マジでホラー映画の主役になった気分だったよ」
「テレビ観てたら、壁を突き破って出てきたんだもんね!」
冗談めかして話しながらも、俺は葵の顔色を伺った。
「それより葵、体は大丈夫なのか?」
「もう動けるわ。……これで私も、立派な『実験体』の仲間入りね」
自嘲気味に笑う葵に、アキラが不意に言葉を重ねた。
「安心しろ、俺もナノマシン兵になったぞ」
「「「えっ!?」」」
三人の声が完璧に重なった。
「戦争で死にかけてな。目が覚めたら改造されてたんだ」
「……高槻にやられたのか?」
あのトカゲ野郎、と心の中で毒づくが、アキラは首を振った。
「いや、軍だ。元々ナノマシンは軍の技術だからな」
「オリジナルは? どんな能力なんだ?」
俺の問いに、アキラは少し困ったような顔をした。
「テレパシーらしいんだが、正直使えている実感がまったくない。オリジナルは、テレパシーで人を意のままに操れたらしいんだがな」
「じゃあ、有坂を操って止めてくれよ」
「だから、自分でも使い方が分かんねえんだって」
こうして久しぶりに四人が集まり、他愛もない会話に花を咲かせた。
状況を考えれば笑っている場合ではないのかもしれない。だが、この瞬間だけは、絶え間なく続く任務も、地中を這う有坂も、人類に宣戦布告したリンのことも忘れ、ただの友人として笑い合うことができた。




