第65話:【覚悟】
有坂が再びロケットランチャーを構えた。
俺は慌てて横へ飛び退き回避したが、その射線の先にはアンナがいた。
――ドォォォォン!!
アンナの悲鳴が轟音にかき消され、凄まじい爆発が巻き起こる。
「アンナ! 大丈夫か!? アンナ!!」
返事がない。俺はなりふり構わずアンナの元へ走ったが、背後から有坂が迫る。速い……この巨体でこの速度は反則だ。追いつかれる、そう直感した瞬間、劉が有坂の背中を両断せんと切り裂いた。
だが、火花が散るのみ。ほぼ服を切り裂いただけで、肉体には届いていない。
「なんという硬さだ……!」
劉の驚愕の声が漏れる。
有坂は無機質に振り向くと、劉の顔面を鷲掴みにして壁へと叩きつけた。コンクリートが粉砕され、劉は建物の外へと吹き飛ばされる。
建物を出た先では、アキラが待ち構えていた。
「撃てぇー!!」
部隊の一斉射撃が有坂を襲う。しかし奴は、まるで猿のような敏捷さで縦横無尽に跳ね回り、弾丸の雨を回避した。そしてロケットランチャーを投げ捨て、素手でアキラの部隊を一人、また一人と文字通り「吹き飛ばして」いく。
「アンナ! 生きてるか!」
「う、うん……でも、ライフルがやられた……!」
アンナは無事だったが、愛銃が瓦礫の下でひしゃげていた。この化け物を相手に、もう丸腰に近い。
「みんな、逃げろ! 殿は俺がやる!」
俺は必死に叫んだ。
「一人じゃ無理です。俺も残ります!」
「わ、私も残る……!」
「ダメだ! 全員で逃げろ! 今の装備じゃ有坂には勝てん!」
『全員撤退だ! 下がれー!!』
アキラの号令とともに、部隊が散り散りに距離を取る。
俺は有坂の注意を引くため、ショットガンを連射した。奴は手で顔を覆うだけで、足は止まらない。
カチッ!
弾切れだ。俺は素早く腰のナイフを抜いて喉笛に突き立てた。だが、数センチ刺さったところで「岩」を突いたような手応えで止まる。
「頑丈さが……異次元すぎるだろ……!」
有坂の手が俺の頭を掴んだ。そのまま容赦のない頭突き。俺の額は簡単に割れ、鮮血が噴き出す。ナノマシンが即座に傷を塞ぐが、脳が揺れる。俺は強引に巴投げで奴を放り投げ、距離を作ると同時に拳銃を全弾ぶち込んだ。
やはり効果はない。有坂も血は出る。だが、傷口が意志を持つかのようにあっという間に塞がるのだ。
再び肉薄し、ナイフを胸に突き立てる。
――パキンッ!
乾いた音を立てて、ナイフが折れた。マジかよ、こいつ……。
有坂が再び、地面に落ちていたロケットランチャーに手を伸ばす。
「させるか!」
俺はそれを蹴り飛ばした。だが、勢い余ってロケットランチャーは俺の足元に転がってくる。
俺は即座にそれを拾い上げ、銃口を有坂へ向けた。
近すぎる。
この距離で撃てば、確実に俺も爆発に巻き込まれる。
自爆。その二文字が脳裏をよぎったが、俺の指は迷わず引き金を引き絞っていた。




