第64話:【化け物】
「アキラ!」
「よう、裕。久しぶりだな」
「戦争は終わったのか?」
「ああ、終わった。……それと、台湾から助っ人が来てるぞ。紹介しよう。台湾最強の男、劉だ。こいつもナノマシン兵だぞ」
「初めまして、劉です」
流暢な日本語で挨拶したその男は、両手に一振りずつの剣を携えていた。
「それで戦うのか?」
銃火器が飛び交うこの時代に、剣一本で渡り合えるのか。俺の疑問を見透かしたように、劉は自信に満ちた笑みを浮かべて「はい」と短く応えた。
その時、アジト内部で激しい爆発が起きた。
「話してる場合じゃないな。乗り込むぞ!」
アジト内にはオリジナルだけでなく、最新のアサルトライフルで武装した私兵たちがひしめいていた。遮蔽物に身を隠し、弾丸をやり過ごしながら俺は尋ねる。
「劉、あんたは何が得意なんだ?」
「スピードを活かした剣術です。……今、お見せしましょう」
劉が動いた。弾丸の嵐を紙一重で掻い潜り、目にも止まらぬ踏み込みで敵の懐へ。閃光が走るたび、敵の首が次々と宙に舞う。
「すげぇ……」
見惚れている暇はなかった。俺もショットガンをぶっ放し、迫りくる敵を蹴散らす。
「オリジナルはいたか?」
「いえ、今のところは――」
劉が答えようとした瞬間、視界が火を噴いた。
猛烈な爆発に巻き込まれ、俺たちは吹き飛ばされる。身体がバラバラになるかと思うほどの衝撃。激しい耳鳴りの中、俺は隣の劉に声をかけた。
「大丈夫か?!」
「油断しましたが……大丈夫です」
爆煙の向こうに、ロケットランチャーを構えた巨漢が立っていた。顔面は焼け爛れ、瞳は白く濁っている。視力があるのかさえ疑わしい異様な風貌だ。
『あいつは軍の実験体だ。確か名前は有坂。こんなところに潜んでいたのか……。奴は怪力な上に素早い。捕まるなよ!』
アキラの忠告が終わるより早く、有坂が猛スピードで肉薄してきた。劉が応戦し、双剣で斬りつけるが、有坂はその巨体に似合わぬ身のこなしですべてを回避する。
――ゴンッ!!
有坂の拳が劉を捉えた。それは人の拳が立てる音ではなかった。交通事故のような鈍い衝撃音と共に、劉の体がボロ雑巾のように吹き飛ばされる。
「……任務、殲滅。」
有坂がしゃがれた低い声で呪詛を吐いた。
劉は頭跳ね起きで即座に立ち上がり、再び挑むが、結果は同じだ。俺もショットガンを連射するが、有坂は痛みを感じていないのか、止まる気配がない。
――ドンッ!
アンナの援護狙撃。しかし、有坂はそれを左手で掴むようにして防いだ。手のひらの傷は瞬く間に塞がっていく。
(……ナノマシン兵か!)
再生を上回るダメージを与えなければ勝ち目はない。
「アンナ! おそらくナノマシン兵だ! 心臓を狙え!」
『了解!』
再びアンナの狙撃音が響く。弾丸は有坂の心臓を正確に貫いた。
ナノマシンの「コア」がある心臓を破壊すれば、どんな不死身でも沈む――。
そう確信していたのだが、有坂は倒れない。
それどころか、胸の傷口が意志を持つかのように、凄まじい速度で盛り上がり、塞がっていく。
「化け物か……」




