第63話:【金剛の壁】
アジトに辿り着いた時、そこにはすでに戦火が広がっていた。
いや、それを「戦い」と呼んでいいのか。日本軍の精鋭たちが、まるで見えない壁に突き当たったかのように、一方的に蹂躙されていく。
「アンナはここから狙撃してくれ」
「りょーかい! 気をつけてね!」
俺は単身、アジトへと走る。だが、踏み込んだ瞬間――後頭部を巨大なハンマーで殴打されたような衝撃が走り、顔面から地面に叩きつけられた。
後ろか!
即座に反転すると、そこには身長180センチはあろうかという、角刈りの恵体な男が立っていた。俺は迷わず至近距離から散弾をぶち込む。
しかし、目の前の光景は常軌を逸していた。火花が散り、金属音が響く。着弾はしているはずなのに、俺の放った散弾は男の肌に弾き返されたのだ。
「何食ったらそんなに堅くなるんだよ……?」
(これならどうだ!)
俺は男の股間を狙い、全力で蹴り上げた。
――ゴキッ!
凄まじい音が響いた。だが、折れたのは俺の足の方だった。即座にナノマシンが修復を始める。最近、明らかに回復の速度が上がっている。
「ナノマシン兵か。お前が裕だな?」
「そうだよ。俺ってそんなに有名人か?」
「『オリジナル殺し』として有名だ。ここから先、アジトには近づけさせん」
言い捨てると同時に、アンナの支援狙撃が男の背を捉えた。だが、ガキン! と再び虚しい金属音が響くだけだ。
「えっ? 狙撃銃も効かないの!?」
「俺の体に傷は付けられん」
男の豪腕が俺の顔面を掴み、壁が崩れるほどの勢いで叩きつけられた。とんでもない馬鹿力だ。俺はゼロ距離で奴の顔面にショットガンを叩き込む。顔が仰け反りこそしたが、ダメージは皆無。
男は俺を掴んだまま、今度は地面へめり込ませた。逃げ場の無い状態で、みぞおちに拳がめり込む。
「ぐぇええっ……!!」
吐瀉物を撒き散らしながら悶絶する。うずくまる間もなく引き起こされ、顔面に追撃。鼻や頬の骨が砕ける感触と共に、数メートル吹き飛ばされた。
(硬い、怪力、狙撃も無効……こんな化け物、どう倒せばいいんだ?)
絶望がよぎる中、男はズンズンと距離を詰めてくる。アンナが男の目を狙撃したが、それすら弾き返された。粘膜すら鋼鉄なのか。
その時、俺の脳裏に一つの閃きが走った。
「……殺される前に、誰の手で死ぬかくらい知っておきたい。名前を教えてくれるか?」
「良いだろう。俺はタケ――」
奴が口を開いた、その一瞬。俺は持っていた手榴弾をその口内へ無理やりねじ込み、ピンを抜いた。
――ボンッ!!
籠もった爆発音と共に、男の頭部が内側から吹き飛んだ。どれほど外殻が堅牢でも、内側までは鍛えられなかったらしい。
『裕! 大丈夫!?』
「なんとか……まだアジトですらないのに、もう疲れたよ」
『そうも言ってられないみたいよ』
見れば、日本軍は依然として劣勢だ。着実に数を減らしている。
そこに一台の装甲車が、並み居るオリジナルを撥ね飛ばしながらアジトへと突っ込んだ。車内から降りてきた精鋭部隊が、鮮やかな連携でオリジナルを次々と仕留めていく。
『裕! 今降りてきたの、アキラじゃない!?』
「アキラ? 戦争に行ってるはずじゃ……」
『きっと帰ってきたんだよ!』
かつての戦友の姿に、俺の胸に熱いものが宿る。
「よし! アジトまで走る! アンナも次の狙撃ポイントに移動してくれ!」
『りょーかい!』




