第62話:【時の支配者】
葵は病室で眠っている。火傷もナノマシンの力で綺麗に治り、ひとまずは安心と言えるだろう。
そんな折、高槻から無機質な連絡が入る。
『裕くん、リベレーターを名乗るオリジナルによる銀行強盗だ。アンナくんと現地に向かってくれ』
「了解」
◇
現地に到着すると、オリジナルが部下を従え警官隊と激しい銃撃戦を繰り広げていた。敵は4人か。
「アンナ、援護よろしく!」
『任せて!』
アンナの精密射撃が火を吹き、瞬く間に2人の頭部を撃ち抜く。俺も1人を射殺し、残る1人は痩せたドレッドヘアーの男。ラフな格好で片手に拳銃を持っている。
銃口を向けた、その瞬間。男が目の前でなんの前触れもなく掻き消えた。現れたと思ったら胸を撃たれていた。
「ぐあっ!」
「捕まえられるかい?」
ドレッドヘアーの男は挑発的に笑みを浮かべてまた消えた。
――直後、後頭部に弾丸を叩き込まれる。
「瞬間移動か?!」
即座に振り向きざまショットガンを放つが、もうそこにはいない。それどころか、何もない空間から全身を同時に殴打されたような衝撃が走り、俺の体は宙を舞った。
「ぐふっ……?!」
破れかぶれで周囲に散弾をバラ撒くが、今度は不自然な角度でいきなり肘がへし折れた。
「ぐあああ!」
(瞬間移動じゃない……時間だ。時間を止めてやがる!)
不可視の暴行による痛みが一気に押し寄せてくる。だが、どうやら数秒しか止められないらしく、一定の周期で奴の姿が露わになることに気づいた。
「アンナ、時間停止のオリジナルだ! 連続しては止められないらしい。出てきたら即撃て!」
『りょーかい!』
――来た!
「アンナ!」
『はいよー!』
――ドンッ!
『ごめん! ギリギリで避けられた!』
「いや、逃げたな。攻撃が来ない。まだ近くにいるはずだ、追うぞ!」
結局、男を仕留めることはできなかった。
最近は、こんな毎日を送っている。オリジナルは手強いが、戦いを重ねる中で「弱点」も見えてきた。周は疲労、ミナは頭痛、陽平は視力の低下。最強に見える力には必ず代償がある。
そして、リベレーター。
今やリンのチームだけでなく、個人でオリジナル、あるいは普通の人間に関わらず、その名を騙る偽物が急増していた。街中には常に消防車やパトカーのサイレンが鳴り響き、日本の治安は悪化の一途をたどっている。
「キリがないね……」
アンナが溜息をつく。
「でも今日のは本物のオリジナルが混ざってた。取り逃したけど、リンの仲間だったのかな?」
「わからない。だがリンの元には続々と戦力が集まってる。次は本当の戦争になるかもな」
「オリジナルの軍勢かぁ。想像もしたくないな……」
重い空気の中、再び高槻から連絡が入る。
『リベレーターかは不明だが、オリジナルのアジトを見つけた。日本軍の精鋭が向かっている。援護に行ってくれ』
「了解」
いつも通り、俺はそう応えた。戦いの終わりは見えない。




