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第60話:【振り出し】

 炎の熱に焼かれ、のたうち回っていると――不意に激しい破砕音が響き、頭上から大量の水が降り注いだ。

再生したヒロシが消火栓を叩き壊したのだ。吹き出した水しぶきが、俺たちの体を包み、地獄のような炎を鎮めた。


「ヒロシ……さすが俺のオリジナル。もう、再生したのか。頭が吹っ飛んだから、さすがに死んだかと思ったよ。ごほっ!」

「勝手に殺すな。……それより、逃がしちまったぞ」


 ヒロシが泥と水にまみれた俺に手を差し伸べる。


「な、投げるなよ?」

「お望みならそうしてやるぞ」

(前科があるからこえーんだよ!)

 俺はビクつきながらも、ヒロシの手を借りて立ち上がった。


「裕ー! ヒロシー!」

 そこへ、アンナが必死の形相で駆け寄ってきた。

「アンナ! 葵は!?」


「酷い火傷だけど、とりあえず命に別状はないって! ……リンは?」

「逃がした」

「あいつら、俺のバイクを盗んでいきやがった。……おい、高槻に俺のバイクのGPSを追わせろ」


「ヒロシ、高槻を知ってるのか?」

 ドスッ!

「うぉぉぉぉっ!!」


 問いかけ終わる前に、ククリナイフが俺の肩に深々と突き刺さった。


「火傷で再生力が弱ってるところに、普通刺すか!?」

「呼び捨てとタメ口の罰だ。お前はすぐ治るだろ。……あいつは爬虫類のような男だ、忘れるはずがない」

 相変わらずの暴力の化身だ。


「治り……ますけども……」

 いてーんだよ、マジで!

「リンたち、街の外で止まったみたいだよ!」

 アンナがタブレットを指して叫ぶ。


「追うぞ、ガキ共」

「アンナもタメ口だよ?」

「ゆ、裕に言ったの!」



 GPSの地点に辿り着くと、そこには乗り捨てられたヒロシのバイクがあった。だが、リンたちの姿はない。


「タイヤ痕……別の車に乗り換えたな」


 ヒロシが地面を睨みながら吐き捨てた。

 また、手がかりが途切れてしまったのか――。


「陽平をぶっ刺したんだ。あの傷なら、普通の病院には行けない。……闇医者の溜まり場、S区に行くぞ」



【S区 闇医者の診療所】

 薄暗い診療所で、ヤニ臭い医者が不機嫌そうに首を振った。


「来てねぇな。見ての通り、こっちは急患で忙しいんだ。帰れ」


 完全な空振り。状況は再び白紙に戻ってしまった。

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