第60話:【振り出し】
炎の熱に焼かれ、のたうち回っていると――不意に激しい破砕音が響き、頭上から大量の水が降り注いだ。
再生したヒロシが消火栓を叩き壊したのだ。吹き出した水しぶきが、俺たちの体を包み、地獄のような炎を鎮めた。
「ヒロシ……さすが俺のオリジナル。もう、再生したのか。頭が吹っ飛んだから、さすがに死んだかと思ったよ。ごほっ!」
「勝手に殺すな。……それより、逃がしちまったぞ」
ヒロシが泥と水にまみれた俺に手を差し伸べる。
「な、投げるなよ?」
「お望みならそうしてやるぞ」
(前科があるからこえーんだよ!)
俺はビクつきながらも、ヒロシの手を借りて立ち上がった。
「裕ー! ヒロシー!」
そこへ、アンナが必死の形相で駆け寄ってきた。
「アンナ! 葵は!?」
「酷い火傷だけど、とりあえず命に別状はないって! ……リンは?」
「逃がした」
「あいつら、俺のバイクを盗んでいきやがった。……おい、高槻に俺のバイクのGPSを追わせろ」
「ヒロシ、高槻を知ってるのか?」
ドスッ!
「うぉぉぉぉっ!!」
問いかけ終わる前に、ククリナイフが俺の肩に深々と突き刺さった。
「火傷で再生力が弱ってるところに、普通刺すか!?」
「呼び捨てとタメ口の罰だ。お前はすぐ治るだろ。……あいつは爬虫類のような男だ、忘れるはずがない」
相変わらずの暴力の化身だ。
「治り……ますけども……」
いてーんだよ、マジで!
「リンたち、街の外で止まったみたいだよ!」
アンナがタブレットを指して叫ぶ。
「追うぞ、ガキ共」
「アンナもタメ口だよ?」
「ゆ、裕に言ったの!」
◇
GPSの地点に辿り着くと、そこには乗り捨てられたヒロシのバイクがあった。だが、リンたちの姿はない。
「タイヤ痕……別の車に乗り換えたな」
ヒロシが地面を睨みながら吐き捨てた。
また、手がかりが途切れてしまったのか――。
「陽平をぶっ刺したんだ。あの傷なら、普通の病院には行けない。……闇医者の溜まり場、S区に行くぞ」
◇
【S区 闇医者の診療所】
薄暗い診療所で、ヤニ臭い医者が不機嫌そうに首を振った。
「来てねぇな。見ての通り、こっちは急患で忙しいんだ。帰れ」
完全な空振り。状況は再び白紙に戻ってしまった。




