第59話:【執念の逃走】
『裕! 早く来て! あいつら、車で逃げようとしてる!』
無線の向こうで、焦燥したアンナの声が響く。
「タイヤを撃て!」
『あ! そっか! 了解!』
直後、遠くでアンナの狙撃音と、激しい金属音を立てて車が衝突する音が聞こえた。
もう邪魔な「周」はいない。今度こそ、絶対に逃がさない。
俺は「超回復」した脚で街中を爆走した。すると背後から、物凄いスピードの排気音が迫り、一台のバイクが俺を追い抜いて急停車した。
敵か!? と身構えたが、そこにいたのはノーヘルのヒロシだった。
「リン達はどこだ?」
「この先だ! 乗せてくれ!」
ヒロシは顎でクイッと「乗れ」と合図し、俺を後ろに乗せて葵たちの元へアクセルを全開にした。
◇
現場に辿り着くと、そこには目を覆いたくなるような光景が広がっていた。
アンナが必死な形相で、倒れた葵に消火器を吹きかけている。
「葵……! 酷い……」
葵の体は、見るも無残な火傷に覆われていた。
「アンナ! 救急車を呼んでおけ! 俺たちは奴らを追う!」
「う、うん! ……二人とも、死なないでね!」
再びヒロシのバイクに飛び乗り、リンたちを追う。……見つけた!
「リンッ!!」
俺はバイクから飛び降りリンに体当たりした。そのまま俺は馬乗りになり、リンの顔に容赦なく二発拳を叩き込んだ。だがリンは怯まない。
懐から取り出した催涙スプレーを浴びせ、改造品だろうか、凄まじい電圧のスタンガンを俺の脇腹に押し付けた。
「クソッ!」
激しい電撃が全身を貫き、筋肉が強直する。その隙にリンは馬乗りから脱出し、膝をつく俺の顔面に強烈な蹴りを叩き込んだ。
「ぐあっ!」
それは到底、女の脚力とは思えない威力だった。俺は倒れ込み、涙と痛みで視界を奪われながら目を擦る。
同時にバイクを降りたヒロシは、静かに陽平へと近づいていた。
「久しぶりだな。陽平。……その目はまだ見えているのか?」
陽平は無言でサングラスを外し、ヒロシを射抜くように見た。
瞬く間に、ヒロシの全身が火だるまになる。陽平はそのまま、目を擦っている俺の方へ視線を向けた。一度目をぎゅっと瞑り、再び開かれた陽平の眼球は、内出血のせいか禍々しく真っ赤に染まっている。
(目が逸らせない……)
磁石に吸い寄せられるように、陽平の瞳を見てしまう。
次の瞬間、体の内側から激しい炎が吹き出した。
「ぐああああああ!!」
内臓を直接焼かれるような炎の地獄。転がり回る俺とは対照的に、ヒロシは激しく燃え上がりながらも、止まることなく陽平の元へツカツカと歩いていく。そして、腰から抜いたククリナイフを、陽平の腹部へ深く突き刺した。
――ドォンッ!
リンが隠し持っていた大口径の拳銃が火を吹いた。
凄まじい銃声とともに、至近距離から放たれたマグナム弾がヒロシの頭部を捉える。
最強と謳われた男の頭が、文字通り『吹き飛んだ』。




