第58話:【殿(しんがり)】
ゆらりと周が立ち上がり、再び姿を消した。
直後、死角からの重い蹴りが俺の脇腹を捉え、体が宙を舞って床に叩きつけられる。
「がはっ……!」
仰向けに倒れた俺の隙を逃さず、周は地面に落ちていたライフルを拾い上げ、次弾を装填して再び消えた。
次に奴が現れたのは、俺の真上。胸元にライフルの銃口が無慈悲に叩きつけられる。
「シネ」
周の低い声が鼓膜を震わせる。――やばい、回避が間に合わない!
――カチッ!
空虚な音が響く。弾切れだ。俺はすかさずライフルの銃身を掴んで自分の方へ引き込み、起き上がりざまに渾身の頭突きを叩き込んだ。
ゴキッ、と周の鼻が折れる生々しい感触。巨体がたまらず後方へ倒れ込んだ。
「ごほっ、ごほっ……!」
周は血を吐きながら、なおも咳き込み起き上がろうとする。俺は奴にショットガンを浴びせ、そのまま葵の元へ急ごうとした。
だが、執念か。周はまたも瞬間移動で俺の背後に現れ、その太い腕で俺の足を掴んだ。
「行かせない(中国語)」
(こいつ、なんでこんなにしぶといんだ……!?)
俺は振り向きざま、周の頭にショットガンの銃口を押し付け、引き金を引いた。
――カチッ!
こっちも弾切れか。俺は即座に拳銃を抜き放ち、周に向けて連射した。だが、奴はまたしても瞬間移動で弾丸を回避する。
(……こいつ、死ぬ気だな)
仲間にリンを逃がすための時間を稼ぐ――その「殿」としての覚悟を悟った。俺は戦士として彼に敬意を表するため、逃げるのをやめ、真っ向から戦う覚悟を決めた。
「アンナ、周をやる。葵の援護を頼む!」
『了解!』
俺は拳銃をホルスターに戻し、拳を構えた。
周も不敵に口角を上げ、独特の構えを取る。中国拳法か。
俺は牽制の前蹴りを放つが、周の反射神経は死に体でも衰えていなかった。
手で軽くいなされ、カウンターの横蹴りが俺の顔面に突き刺さる。
だが、俺はその衝撃を耐え、奴の脚をガッチリと掴んだ。
そのまま、背負い投げの要領で奴を宙に舞わせる。「超回復」で爆発的に上がった筋力のせいか、巨体が安々と投げ飛ばされた。
着地と同時にアキレス腱固めへ移行。力任せに奴の足首を破壊する。
「ぐあぁぁあ!!」
周の悲鳴が建物に響く。俺は止まらず、素早く背後に回り込んでチョークスリーパーを仕掛けた。
周は物凄い力で腕をこじ開けようとするが、俺は逃がさない。全身の力を込めて締め上げ、最後は一気に首をへし折った。
周の腕から力が抜け、だらりと垂れる。
俺は奴の亡骸を静かに横たえ、手を胸の上で組ませた。それが、命を賭して戦った敵へのせめてもの誠意だった。
「……待ってろ、葵」
俺は再び、葵の元へと地を蹴った。




