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第57話:【追跡】

 そんな折、葵から通信が入った。


『連中を見つけたわ。今、尾行してる……早く来てちょうだい』


 葵の声は、かつてないほど緊迫していた。

「わかった。サングラスの男(陽平)には気を付けてくれ。――アンナ、行こう! 葵がリンを見つけた!」

「うん!」


 俺は走りながらヒロシにも連絡を入れ、位置情報を共有した。



「奴らはあの建物に入ったわ」

 合流した葵が、古いビルを指さす。

「よし、突入だ」

「ちょっと、何の作戦もなしに!?」

 葵に詰め寄られ、俺は足を止めた。そうだ。陽平への対策が、まだ何も思い浮かんでいない。


「今逃がしたら手掛かりがなくなる」

「きっと罠があるよ!直感だけどね。無策で突っ込むのは危険すぎる」

「私は隠れて裏を見張るわ。戦力は期待しないでね」



 結局、俺一人で正面から突入することになった。アンナは外で狙撃の準備。葵は裏口の張り込みだ。

 ビルの中へ慎重に足を踏み入れる。床や壁の至る所に、細いワイヤーが張り巡らされていた。


「……トラップか」

 慎重に、一つひとつ避けて進む。だが、部屋の奥へ踏み込んだ瞬間――けたたましい警報音が鳴り響いた。


「なっ……!? 罠には触れてないはずだ。まさか、赤外線か!」

 判断ミスだ。強引に奥へ向かおうとしたその時、焦りからか足元がおろそかになった。わずかに足首が、見落としていた細い線に触れる。


 ――ターーーンッ!


 乾いた発砲音。直後、右肩に焼けるような衝撃が走った。


「ぐっ……あぁ!!」


 ライフルか。対ナノマシン弾特有の、神経をかき乱すような痺れが全身を襲う。俺は手が痙攣しながらもナイフを突き立て、無理やり肩の弾丸を抉り出した。

 ナノマシンによる再生が始まるが、思考を塗りつぶすような激痛が走る。


「なんて、嫌な罠だ……!」


 痛みに耐え顔を上げると、そこに巨人――シュウが立っていた。手には大型のライフル。

(対ナノマシン弾……!)


「コロス!」


 唸るような低い声と、たどたどしい日本語。周は銃口をこちらに構えた。そして、パッと姿が消えた。

 ゾッとして咄嗟にしゃがむ。


 ――ターーーンッ!


 発砲音が頭上を掠める。真後ろに瞬間移動していた。


(装填させるか!)


 俺は「超回復」で得た瞬発力を活かし、周へカニバサミを仕掛けて転ばせ、ライフルを奪い取ろうとしたが、また瞬間移動。今度は真上。

 俺は転がって避けてから、着地した瞬間のライフルの銃身を蹴り上げた。

 ショットガンを発砲するが、また消える。

 こうして「消えては避ける」を何度も繰り返しているうちに、周の動きに異変が生じた。


「ごふっ!」


 周が突如、激しく吐血した。

 チャンスだ! 俺はショットガンを撃つが、奴は死に物狂いで躱した。

(わかったぞ……。瞬間移動は連発すると体への負担が凄まじいんだな)

 周がまた瞬間移動し、落としたライフルを拾って消えた。

 今度は右側。俺は咄嗟に、放たれる銃口を手のひらで塞ぐように掴んだ。


 ――ターーーンッ!


 手のひらを貫かず、弾が肉の中に残った。対ナノマシン弾の弱点は、ナノマシンを壊すために弾丸が脆く、貫通力が低いことだ。

 そのまま銃口を力任せに引っ張り、渾身の左ストレート。周の巨体が後ろに吹き飛んだ。俺は素早くナイフで自らの手から弾丸を抉り取り、ショットガンを構え直した。


『リン達を追ってるわ! 早く来て!』


 無線の向こうから、葵のこれまでにないほど焦った声が響く。

 周を仕留めるか、葵の援護に向かうか。時間が無い。

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