第57話:【追跡】
そんな折、葵から通信が入った。
『連中を見つけたわ。今、尾行してる……早く来てちょうだい』
葵の声は、かつてないほど緊迫していた。
「わかった。サングラスの男(陽平)には気を付けてくれ。――アンナ、行こう! 葵がリンを見つけた!」
「うん!」
俺は走りながらヒロシにも連絡を入れ、位置情報を共有した。
◇
「奴らはあの建物に入ったわ」
合流した葵が、古いビルを指さす。
「よし、突入だ」
「ちょっと、何の作戦もなしに!?」
葵に詰め寄られ、俺は足を止めた。そうだ。陽平への対策が、まだ何も思い浮かんでいない。
「今逃がしたら手掛かりがなくなる」
「きっと罠があるよ!直感だけどね。無策で突っ込むのは危険すぎる」
「私は隠れて裏を見張るわ。戦力は期待しないでね」
◇
結局、俺一人で正面から突入することになった。アンナは外で狙撃の準備。葵は裏口の張り込みだ。
ビルの中へ慎重に足を踏み入れる。床や壁の至る所に、細いワイヤーが張り巡らされていた。
「……トラップか」
慎重に、一つひとつ避けて進む。だが、部屋の奥へ踏み込んだ瞬間――けたたましい警報音が鳴り響いた。
「なっ……!? 罠には触れてないはずだ。まさか、赤外線か!」
判断ミスだ。強引に奥へ向かおうとしたその時、焦りからか足元がおろそかになった。わずかに足首が、見落としていた細い線に触れる。
――ターーーンッ!
乾いた発砲音。直後、右肩に焼けるような衝撃が走った。
「ぐっ……あぁ!!」
ライフルか。対ナノマシン弾特有の、神経をかき乱すような痺れが全身を襲う。俺は手が痙攣しながらもナイフを突き立て、無理やり肩の弾丸を抉り出した。
ナノマシンによる再生が始まるが、思考を塗りつぶすような激痛が走る。
「なんて、嫌な罠だ……!」
痛みに耐え顔を上げると、そこに巨人――周が立っていた。手には大型のライフル。
(対ナノマシン弾……!)
「コロス!」
唸るような低い声と、たどたどしい日本語。周は銃口をこちらに構えた。そして、パッと姿が消えた。
ゾッとして咄嗟にしゃがむ。
――ターーーンッ!
発砲音が頭上を掠める。真後ろに瞬間移動していた。
(装填させるか!)
俺は「超回復」で得た瞬発力を活かし、周へカニバサミを仕掛けて転ばせ、ライフルを奪い取ろうとしたが、また瞬間移動。今度は真上。
俺は転がって避けてから、着地した瞬間のライフルの銃身を蹴り上げた。
ショットガンを発砲するが、また消える。
こうして「消えては避ける」を何度も繰り返しているうちに、周の動きに異変が生じた。
「ごふっ!」
周が突如、激しく吐血した。
チャンスだ! 俺はショットガンを撃つが、奴は死に物狂いで躱した。
(わかったぞ……。瞬間移動は連発すると体への負担が凄まじいんだな)
周がまた瞬間移動し、落としたライフルを拾って消えた。
今度は右側。俺は咄嗟に、放たれる銃口を手のひらで塞ぐように掴んだ。
――ターーーンッ!
手のひらを貫かず、弾が肉の中に残った。対ナノマシン弾の弱点は、ナノマシンを壊すために弾丸が脆く、貫通力が低いことだ。
そのまま銃口を力任せに引っ張り、渾身の左ストレート。周の巨体が後ろに吹き飛んだ。俺は素早くナイフで自らの手から弾丸を抉り取り、ショットガンを構え直した。
『リン達を追ってるわ! 早く来て!』
無線の向こうから、葵のこれまでにないほど焦った声が響く。
周を仕留めるか、葵の援護に向かうか。時間が無い。




