第56話:【手掛かり】
ヒロシはリンの写真を見つめたまま、一瞬だけ動きを止めた。
「知ってるの?」
と言った途端、俺は胸ぐらを掴まれて宙を舞い、床に投げ飛ばされた。ヒロシは即座に馬乗りになり、俺の腰からナイフを奪い取ると、その切っ先を喉元に突きつけた。
「彼女はどこだ? 言え」
「し、知らない……っ。俺たちも追ってるんだ!」
「ゆ、裕!」
アンナは横でオロオロと立ち尽くしている。手を出せば、俺の首が飛ぶことを分かっているからだ。
「ヒロシ、知ってるの……?」
ドスッ!
問いかけに答える代わりに、ヒロシは俺の肩にナイフを深々と突き刺した。
「うぉぉぉ……っ!! 何か聞く度に、絶対暴力が返ってくる……ッ!」
「裕、大丈夫!?」
「……だいぶ前になるが、彼女が子供の頃に北京で会ったことがある」
ヒロシは肩からナイフを引き抜き、俺に投げ返すように戻すと、のっそりと立ち上がった。
「あいつの能力はなんだ?」
「……彼女は人間だ」
「人間だったのか……?」
あれだけのテロ組織を率いて、オリジナルたちを従えている女が、ただの人間。逆にその底知れなさが怖くなる。
「他には知らないか? 炎を操る陽平って男と、瞬間移動する巨人がいる」
「陽平も生きていたのか。巨人は2メートルを超えた奴のことか? 奴の名は周だ。……王や張はどうした?」
「王と張は、俺たちが倒したよ。放っておけないくらい危険な奴らだったからな」
「……ほう。よくお前らみたいなガキが倒せたな」
「二人がかりでギリギリだったけどね」
アンナが少し誇らしげに言うが、ヒロシの視線は冷たいままだった。
「次のテロを起こす前に、なんとか止めたいんだ。頼む、手伝ってくれないか?」
「俺は俺でやる。帰れ」
「じゃ、じゃあ……見つけたら私たちにも教えてくれない? これ、連絡先だから!」
アンナが恐る恐る名刺を差し出す。ヒロシがそれを奪い取るように受け取った瞬間、アンナは「ビクッ」と肩を震わせた。
「お前らも、見つけたら知らせに来い」
「……居場所はわかるのか?」
「何ヶ所かはな」
「案内できるか?」
「今日は無理だ」
「なんでだよ」
「気が乗らん」
ヒロシは再びカウンターに向き直り、酒を煽った。それ以上、彼が口を開くことはなかった。




