第54話:【超回復】
帰り道、アンナと二人で動けなくなるまで飯を食らい、泥のように眠った。
翌朝、異変は起きた。部屋から出ようとドアノブを掴んだ瞬間、「メキッ」と嫌な音がした。金属製のノブが、飴細工みたいに不自然にひしゃげている。
「……?」
不思議に思いながら、顔を洗いに向かった。
大きな欠伸をしながら洗面所の鏡の前に立つと、そこにいたのは一回り以上ガタイの良くなった自分だった。
最近は任務ばかりでろくに鏡を見ていなかったが、それにしても急激すぎないか?
鍛えられたというより、肉体そのものが作り替えられたような……。
そこへ、眠そうに目をこすりながらアンナが起きてきた。
アンナは俺を一度見て、目をこすって、もう一度見直して固まった。
「……なんか、マッチョになってない?」
「あ、やっぱり? なんか起きたらこんなんなってたんだよ」
「絶対おかしいよ! 高槻に診てもらった方がいいって」
「どうせ見せたら採血されるだろうけど、こっちから行くか。あの吸血トカゲ」
「トカゲ?」
「高槻って爬虫類っぽくない? 冷血だし」
◇
研究所へ向かい、高槻に体つきの変化を伝えた。
「面白い。……さあ、採血させてくれ」
やっぱりか。俺は溜息をつきながら腕を差し出した。
「なんですか、これ」
「君のナノマシンとの結合強度は、以前から異常だったからね。致命傷レベルのダメージに耐え、それを克服しようと細胞が進化したんだろう。……いわゆる『超回復』というやつだね」
「超回復って、筋トレの後に筋繊維が太くなるあれですか?」
「そう。だが君の場合は再生特化のナノマシンが介在している。一晩で数年分、いやそれ以上の進化を遂げたようだ。君は本当に面白いねぇ」
高槻は、新種の新薬でも見つけた子供のような顔で笑った。楽しそうで何よりだよ。
◇
精密検査の結果、筋肉細胞の一つ一つにナノマシンが強固に結びつき、密度が爆発的に上がっていることが判明した。
「何か、日常生活で変わったことはないかね?」
「ドアノブを捻り壊しました」
「ほう。……では、軽い身体測定を受けてくれ」
正直、自分の運動能力はナノマシン兵の中でも並だと思っていた。だが、テストの結果は驚愕だった。握力、背筋、瞬発力……すべてが以前の数倍に跳ね上がっていた。
「なんか……急に強くなった気分だ」
「気分ではないよ。眠っていた君のポテンシャルが、死線を越えたことで目覚めたんだ」
高槻の言葉に、俺はふとあのアウトローの顔を思い浮かべた。
「これなら、ヒロシにも勝てるかな?」
「夢は見ないことだね」
即答かよ! この冷血トカゲめ!




