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第54話:【超回復】

 帰り道、アンナと二人で動けなくなるまで飯を食らい、泥のように眠った。


 翌朝、異変は起きた。部屋から出ようとドアノブを掴んだ瞬間、「メキッ」と嫌な音がした。金属製のノブが、飴細工みたいに不自然にひしゃげている。

「……?」

 不思議に思いながら、顔を洗いに向かった。


 大きな欠伸をしながら洗面所の鏡の前に立つと、そこにいたのは一回り以上ガタイの良くなった自分だった。

 最近は任務ばかりでろくに鏡を見ていなかったが、それにしても急激すぎないか?

 鍛えられたというより、肉体そのものが作り替えられたような……。


 そこへ、眠そうに目をこすりながらアンナが起きてきた。


 アンナは俺を一度見て、目をこすって、もう一度見直して固まった。

「……なんか、マッチョになってない?」

「あ、やっぱり? なんか起きたらこんなんなってたんだよ」


「絶対おかしいよ! 高槻に診てもらった方がいいって」

「どうせ見せたら採血されるだろうけど、こっちから行くか。あの吸血トカゲ」


「トカゲ?」

「高槻って爬虫類っぽくない? 冷血だし」



 研究所へ向かい、高槻に体つきの変化を伝えた。

「面白い。……さあ、採血させてくれ」

 やっぱりか。俺は溜息をつきながら腕を差し出した。

「なんですか、これ」


「君のナノマシンとの結合強度は、以前から異常だったからね。致命傷レベルのダメージに耐え、それを克服しようと細胞が進化したんだろう。……いわゆる『超回復』というやつだね」

「超回復って、筋トレの後に筋繊維が太くなるあれですか?」


「そう。だが君の場合は再生特化のナノマシンが介在している。一晩で数年分、いやそれ以上の進化を遂げたようだ。君は本当に面白いねぇ」

 高槻は、新種の新薬でも見つけた子供のような顔で笑った。楽しそうで何よりだよ。

 精密検査の結果、筋肉細胞の一つ一つにナノマシンが強固に結びつき、密度が爆発的に上がっていることが判明した。

「何か、日常生活で変わったことはないかね?」

「ドアノブを捻り壊しました」


「ほう。……では、軽い身体測定を受けてくれ」

 正直、自分の運動能力はナノマシン兵の中でも並だと思っていた。だが、テストの結果は驚愕だった。握力、背筋、瞬発力……すべてが以前の数倍に跳ね上がっていた。

「なんか……急に強くなった気分だ」

「気分ではないよ。眠っていた君のポテンシャルが、死線を越えたことで目覚めたんだ」


 高槻の言葉に、俺はふとあのアウトローの顔を思い浮かべた。

「これなら、ヒロシにも勝てるかな?」

「夢は見ないことだね」

 即答かよ! この冷血トカゲめ!

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