第47話:【執念】
「くっ! 離しなさい!」
女が悲鳴に近い声を上げ、俺の頭を力任せに踏みつけてくる。
(首を跳ね飛ばされても、離すもんか……!)
口腔内に女の熱い血が広がる。鉄の味が意識を繋ぎ止める。
(食いちぎってやる……一欠片でも、持っていってやる!)
俺はさらに、砕けるほど顎に力を込めた。
――グシャァッ!!
女は苛立ちを爆発させ、念動力に近い風圧で近くのビルの壁を剥がし、俺の背中に叩き落としてきた。
「ぐふっ!」
内臓が押し潰される衝撃に大量の血を吐いたが、俺は噛み付いた顎の力を緩めない。俺の血か女の血か、それとも両方か――混ざり合った赤が口の端からドロリと滴り落ちる。
「こいつ、しつこい!!」
女は狂ったように、もう片方の足で俺の顔をめちゃくちゃに踏みつけ始めた。
踏まれるたびに頭蓋骨が軋み、顔面が潰れる「グシャ」という嫌な音が脳内に響く。意識が飛びそうになるが、心の中で叫び続けた。
(アンナ……撃て、アンナぁーーー!!)
生きてるかわからないアンナにこの隙に撃ってくれ。そう思った。
――ドンッ!!
その時、空気を震わせる乾いた発砲音が響いた。アンナの狙撃音だ!
女は咄嗟に風のバリアを展開したが、一瞬遅かった。弾丸は暴風に煽られて軌道を変えつつも、女の右腕を捉えた。肉と骨が派手に弾け飛ぶ。
「ぐああああっ!!」
絶叫し、右腕を押さえて上空へ逃げ去る女。その解放感と同時に、俺の意識はぷつりと途切れた。
◇
その頃、アンナは瓦礫の下からボロボロの体を引きずり出していた。
全身のあちこちが欠け、泡立ちながらゆっくりと再生している。だが、彼女の瞳は一点だけを凝視していた。
「逃がさない……。気絶する、前に……絶対に……」
震える腕で狙撃銃を固定し、空へと消えゆく影に照準を合わせる。
――ドンッ!
二発目の銃声。
だが、アンナの体力も限界だった。引き金を引く直前に力が抜け、銃口がわずかに跳ねた。弾丸は女の脇腹をかすめるように通り過ぎ、空の彼方へ消えていく。
「あ、あの二人……! 覚えてなさいよ!!」
女は憎しみを込めて吐き捨て、半分吹き飛んだ右腕を抑えながら、嵐の雲の中へと逃げ去っていった。
静かになったB区の路上に、ボロボロになった二人だけが横たわっていた。




