第45話:【格の違い】
(ひー、怒ってる……。立ってるだけで威圧感が半端ない)
ヒロシは奪った俺のナイフを逆手に持ち、迷いなく襲いかかってきた。
俺はすかさず、カウンターでヒロシの膝に蹴りを入れた。ゴキッ、と鈍い音が響いたが、奴は顔色一つ変えずに即座に完治させ、そのまま俺の太腿を深く刺し貫いた。
「大腿動脈だ。死にたくなかったらさっさと病院へ行くんだな、お嬢ちゃん」
「お嬢ちゃん……!? 俺は男だ!」
俺は激痛を堪えてナイフを引き抜くと、ヒロシの脚に刺し返した。
「小僧……ナノマシン兵か? なら遠慮はいらねぇな」
そこからは一方的だった。殴っては引き起こされ、蹴っては引き起こされ、柔道の投げで地面に叩きつけられたかと思えば、壁に頭を何度も打ち据えられる。脚にナイフが刺さったまま、俺は文字通りボッコボコにされた。
――パンッ!
見かねたアンナがヒロシの頭を撃ち抜いた。だが、銃創は泡立つ暇もなく瞬時に塞がる。再生速度は俺とは比較にならない、異常な速さだ。
ヒロシはアンナの方へ向き直ると、ツカツカと歩き出した。
アンナは焦り、頭、心臓、肝臓、股間と、弾切れになるまで連射した。だが、ヒロシは歩みを全く止めない。痛みを感じていないのか?
ヒロシはアンナの手から拳銃を掴み取ると、鉄屑のようにひしゃげさせた。
「こんな玩具じゃ効かねぇと言ったろ?」
「死ねぇ!」
俺は後ろから、落ちていたコンクリートブロックでヒロシの後頭部を全力で殴打した。ブロックは粉々に砕け、ヒロシも血を吹き出したが、奴は脚に刺さっていたナイフを抜くや否や、俺の喉元へ刺し返した。
「っが……あ……!」
喉を焼くような激痛。ナイフを抜こうと手を伸ばすが、そのまま顔面を殴り飛ばされた。
「裕! この!」
銃を失ったアンナが、後ろからヒロシの背中をペチッと殴る。
ヒロシは鬱陶しそうに振り向くと、アンナの顔を片手で掴み、俺の方へ向かって放り投げた。
「きゃっ!」
アンナが小さな悲鳴を上げて俺の上に重なる。
「帰んな。次は……遊びじゃ済まさん。心臓を狙うぞ」
「は、話ぐらい……聞いてくれてもいいだろ……!」
喉の傷を必死に塞ぎながら食い下がるが、ヒロシは一瞥もくれなかった。
「帰れ」
そう吐き捨て、彼は平然とした足取りで飲み屋の中へと戻っていった。




