第44話:【戦争の英雄】
研究所に戻り、高槻に今回の顛末を報告した。
「今回もまんまとやられたね。リンはこれでオリジナルのチームを作ることができる。やはりオリジナル相手となると、こちらが不利だな」
「ええ、二人がかりで何とか撃退しましたが……」
「強かったー……」
アンナが深くため息をつく。ナノマシン兵である俺たちを子供扱いする力。
それが本物の「オリジナル」の力だった。
「協力は期待できないが……君の『オリジナル』に会ってみるかね?」
「俺のオリジナル? 収容所にいたんじゃないんですか?」
「てことは、再生能力の……?」
「ああ。第二次世界大戦の英雄でね。軍を退いてからは隠居しているよ」
「ジジイじゃないですか!」
第二次世界大戦と言ったら、今から100年も昔だ。まだ生きているのが不思議なレベルだ。
「彼を見たら、そうも言えなくなるよ。私が行ったら殺されかねないからね。君が適任だ。まぁ、ダメ元で会ってみる価値はある」
「場所はどこですか?」
「C区だ。無類の酒好きでね、飲み屋にいるだろう。これが写真だ」
見せられた写真には、どう見ても30代に見える精悍な男が写っていた。
「昔の写真ですか?」
「10年前の写真だが、今も見た目は変わっていないはずだよ」
◇
都心・C区。
「裕ぁ、C区の美味しいお店は?」
「ああ、二郎系が……って、そうじゃなくて飲み屋を探そう。アンナはいつも食べ物のことばっかりだな」
「いいね! 飲み会!」
「あ、でもアンナ飲めるの? 店ではジュースにしとけよ」
「ねー!背が低いからって子供扱いやめて!」
「あはは、じゃあ適当に入るか」
一軒の居酒屋に入り、生ビールを二つ頼む。
「はい、生二つ!」
「あ、すいません。この人、見覚えありますか?」
店員に写真を見せると、あからさまに顔を引きつらせた。
「あ、ああ……この人! ウチは出禁だよ。店で大暴れしたから。弁償させようとした店長まで殴られて大変だったんだから」
どうやら相当に血の気の多い人らしい。
「どの辺で会えるか知ってますか?」
「表通りの店は全部出禁だって噂だからね。裏通りの、もっとヤバい店にいるんじゃないかな」
「ありがとう。」
「あと、焼き鳥の盛り合わせもちょーだい!」
一頻り飲み食いした後、俺たちは裏通りへと向かった。
「裕ぁ、C区の裏通りは治安悪いから気をつけなよ」
――ガシャアアアンッ!!
景気よく飲み屋のガラス扉を突き破って、男が一人転がり出てきた。
「……みたいだね」
転がった男は白目を剥いて気絶している。
店内を覗くと、俺と同じくらいの背丈の男が立っていた。だが、筋肉の密度が違う。写真の通り、全く老けていない――ヒロシだ。
ヒロシは倒れた男を一瞥すると、興味なさそうにカウンターに戻って飲み直し始めた。
「いきなり居た!」
「なんか、見るからに危なそうな人だね……」
「声を掛けてみよう。……あの、ヒロシさんですか?」
「お前らは?」
低く、地鳴りのような声が響く。
「俺は裕です」
「アンナだよ! 警察だよ!」
アンナが身分証を突き出した。
「消えな、ガキ共」
ヒロシは一蹴して酒を煽る。
「話だけでも……」
食い下がろうと彼の肩に手を置いた――それがマズかった。
次の瞬間、視界が回転した。俺は鮮やかに投げ飛ばされ、気づけば腰のナイフを奪われていた。
「裕! 止まれ!」
アンナが慌てて拳銃を構える。
「争いなら外でやってくんな」
店主や他の客は慣れているのか、騒ぎもせずに普通に飲み食いしている。なんだこの店。
「撃ってみな。そんな玩具、俺には効かん」
「……じゃあ、これは?」
俺は至近距離からヒロシの股間を膝蹴りした。
直後、ヒロシの目が獣のように据わった。彼は激怒し、俺の襟首を掴んで店の外へと放り投げた。凄まじい怪力だ。
「アンナ! 手を出すな!」
地面に転がりながら叫ぶ。
ヒロシがゆっくりと店から出てくる。その全身から、震えるほどの威圧感が溢れ出していた。
「坊主……覚悟は出来てんだろうな?」




