第42話:【収容所】
リンを捜索していた捜査員3人が行方不明になった。状況からして、おそらくだけど、リンの手にかかったのかも。
俺は研究所に戻り、高槻にファミレスで起きた事を話した。
「博士、女リーダーの目的がわかりました。オリジナルの解放だそうです。名前はリンと名乗っていました」
「そうか。ならば、我々の管轄外だな」
高槻は表情一つ変えずに言った。
「何でですか?」
「オリジナルは日本軍の管理下、特殊な収容所に囚われている。警察の権限など及びもしない場所だよ」
ミナが壊されたところか、と心がざわついた。
「警護につけますか?」
「君たちが軍人にでもならない限り無理だ」
「あーあ、せっかくの手がかりだったのになぁ」
アンナが肩を落としてため息をつく。
「なら、収容所施設の『外』で張り込むのはどうかね?」
「えっ、場所を教えてもらえるんですか?」
「ああ、君たちにならいいだろう。これでも、それなりに信用しているんだよ」
「え? 信用してくれてた? モルモットじゃなかったの?」
思わず本音が出た。トカゲ野郎の癖に、妙に物分りがいい。
「私は自分も含めた命は平等に扱う主義でね。それに……」
「それに?」
「モルモットは可愛いだろう?」
高槻は冷たい笑みを浮かべた。絶対、俺の想像してる「可愛い」とは意味合いが違うんだろうな。冷血怪人・トカゲ男の思考は善良な俺には分からない。
「それで、場所はどこなんですか?」
「K区だ。……何かと因縁があるね」
王と戦った、K区。
あ! そういえば、アンナの医療費を闇医者に払ってなかった。「臓器を売ってでも払う」なんて言っちゃったし、この任務の合間に挨拶にでも行こうか……。
◇
K区
日本軍基地は想像以上に広大だった。リンが現れるなら、収容所のある東側だろう……そう踏んで張り込みを続けて数日。
「来ないねぇ、今日もハズレかなぁ」
「でもここで張ってれば、いつか必ず現れるさ。……たぶん、おそらく…だったらいいな」
自信なく、そう言った直後だった。目の前の巨大な壁が、
――ドォォォォン!!
凄まじい轟音と共に爆発した。至近距離にいた俺たちは、熱風と爆風に煽られ派手に吹き飛ぶ。
けたたましい警報が鳴り響き、瓦礫の隙間から囚人服を着た男たちが散り散りに逃げ出していく。
「アンナ! 大丈夫か?!」
「なんとか! それより見て、囚人? 捕虜? みんな逃げてくよ!」
「リンは……リンは出てきたか?!」
俺はケースからショットガンをひったくるように取り出した。
「わからない! スモークが濃くて見えない!」
アンナも素早く狙撃銃を構える。
「行くぞ!」
「うん!」
俺とアンナは収容所内に飛び込んだ。
◇
収容所の奥へと踏み込むと、そこには地獄を煮詰めたような異様な光景が広がっていた。
鎖に繋がれて狂ったように暴れる者、
虚空を見つめて指をくわえ続ける者、
ブツブツと支離滅裂な独り言を呟く者。
ここにある「命」は、すべて壊れていた。
「ところどころ、檻の中が空だ。逃げ出した形跡があるな」
「遅かったのかな? あの壁の爆発は、こっちから注意を逸らすための陽動?」
「そうかもな……クソッ」
内部の静寂が逆に不気味だった。その時、アンナが息を呑み、前方の通路を指差した。
「待って! あそこ!」
その先に、あの女――リンが立っていた。
「動くな! 逮捕する!」
俺がショットガンを構え、アンナがスコープを覗く。
「もう観念しな! どこにも逃げられないよ!」
だが、リンは動じるどころか、薄く冷たい笑みを浮かべた。
「あら、遅かったわね」
彼女の視線の先には、すでに破壊された重厚な隔壁があった。
「もう少しお話ししてあげたかったけれど。残念ながら、あなたたちに構っている暇はないの。」
「何を――」
言いかけた瞬間だった。
背後から、何者かに殴打された。
――ガツッ!!
「ぐあぁっ……!」
物凄い怪力で殴り飛ばされ、受け身も取れず地面に叩きつけられた。




