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第40話:【微笑み】


「合図だ」

 高槻の言葉に、スコープを覗くアンナは硬直していた。


 狙いを定める相手は、いつも明確な「敵」だった。しかし、今回の標的は自分よりも小さな、年端もいかない少女。


 アンナの指は震え、銃身に伝わるほどに冷や汗が流れる。


「アンナくん?」


「う、撃てないよ……こんなの……っ」



 合図を送ってから数秒。おかしい。レールガンの閃光は走らない。


 目の前では、ミナが狂おしいほどにもがきながら、周囲の空間を破壊し続けている。

「早く殺して……!」

「アンナ……!」俺は無線に怒鳴り散らした。


『裕ぁ、こんなの無理だよ……撃てないよぉ……っ』


「アンナ! ……撃て! ……頼む……!」俺は泣きながら言った。


『嫌だよぉー!』アンナも泣きじゃくっていた。


 ……そうだ。アンナには無理だ。彼女にこの引き金を引かせるのは、あまりにも残酷な命令だった。


「……わかった。俺がやる」


 俺は超能力が渦巻く嵐の中、ミナが一度投げ捨てた拳銃を拾い上げた。震える手でマガジンを叩き込み直し、一歩、また一歩と彼女に近づく。


 そして、溢れる涙を拭いもせず、震える声で聞いた。


「ミナ。……言い残した言葉はあるか?」


 激痛に顔を歪め、ミナもまた泣いていた。


「……人として……話してくれて、ありがとう……」


 俺は、引き金を引いた。


 ――タァンッ!


 前回は透明な壁に阻まれた弾丸が、今度は拒絶されることなく、まっすぐに彼女の心臓を貫いた。


 ドサッ。

 小さな体が、音を立てて崩れ落ちる音だけがやけに大きく響いた。

 倒れる瞬間、彼女の唇がわずかに、微笑んだ気がした。


 俺はその場に膝をついた。


「すまない……本当に、すまない……」


 何度も、何度も謝り続けた。


 一頻り泣いた後、俺は彼女の剥き出しになった瞳を優しく閉じさせ、胸の上で小さな手を組ませた。


 静まり返った山の中で、俺は静かに冥福を祈った。

(もう痛くないからな…おやすみ。ミナ)

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