第40話:【微笑み】
「合図だ」
高槻の言葉に、スコープを覗くアンナは硬直していた。
狙いを定める相手は、いつも明確な「敵」だった。しかし、今回の標的は自分よりも小さな、年端もいかない少女。
アンナの指は震え、銃身に伝わるほどに冷や汗が流れる。
「アンナくん?」
「う、撃てないよ……こんなの……っ」
◇
合図を送ってから数秒。おかしい。レールガンの閃光は走らない。
目の前では、ミナが狂おしいほどにもがきながら、周囲の空間を破壊し続けている。
「早く殺して……!」
「アンナ……!」俺は無線に怒鳴り散らした。
『裕ぁ、こんなの無理だよ……撃てないよぉ……っ』
「アンナ! ……撃て! ……頼む……!」俺は泣きながら言った。
『嫌だよぉー!』アンナも泣きじゃくっていた。
……そうだ。アンナには無理だ。彼女にこの引き金を引かせるのは、あまりにも残酷な命令だった。
「……わかった。俺がやる」
俺は超能力が渦巻く嵐の中、ミナが一度投げ捨てた拳銃を拾い上げた。震える手でマガジンを叩き込み直し、一歩、また一歩と彼女に近づく。
そして、溢れる涙を拭いもせず、震える声で聞いた。
「ミナ。……言い残した言葉はあるか?」
激痛に顔を歪め、ミナもまた泣いていた。
「……人として……話してくれて、ありがとう……」
俺は、引き金を引いた。
――タァンッ!
前回は透明な壁に阻まれた弾丸が、今度は拒絶されることなく、まっすぐに彼女の心臓を貫いた。
ドサッ。
小さな体が、音を立てて崩れ落ちる音だけがやけに大きく響いた。
倒れる瞬間、彼女の唇がわずかに、微笑んだ気がした。
俺はその場に膝をついた。
「すまない……本当に、すまない……」
何度も、何度も謝り続けた。
一頻り泣いた後、俺は彼女の剥き出しになった瞳を優しく閉じさせ、胸の上で小さな手を組ませた。
静まり返った山の中で、俺は静かに冥福を祈った。
(もう痛くないからな…おやすみ。ミナ)




