第3話:【狙撃手】
日常とかけ離れた光景があった。
アンナがソファに座り、自分の背丈ほどもある「鉄の塊」を愛おしそうにメンテナンスしていたのだ。
「アンナの武器?ごっつくてカッコイイね」
思わず素直な感想が漏れた。
「うん! 狙撃用ライフル!」
あまりに物騒な代物だが、ここは公安の施設。これくらい普通なのかもしれない。
「アンナ、ちっこいのにそんなの撃てるの?」
「もちろん!裕も一緒に訓練する?あとちっこいって言うな!」
自信満々なアンナに誘われ、俺たちは訓練所へと向かった。
到着して驚いたのは、その広大さだ。
自衛隊の基地ほどもあるだろうか。射撃場、道場、トレーニングルームにアスレチック……。
空気には、硝煙と乾いた血が混ざり合ったような、特有の匂いが染み付いていた。
「広い……」
「でしょ? 市街地を模した訓練場もあるよ! 今日はあそこ!」
グイグイと腕を引っ張られ、辿り着いたのは再現度の高い廃ビル群だった。
入口には見たこともない最新型の銃器が並んでいる。俺は直感で、一番扱いやすそうな……と見せかけて1番カッコイイ一挺を手に取った。だってカッコイイから。
「ついてきて!」
アンナの後を追い、雑居ビルの中腹へ向かう。
「屋上じゃないの?」
「そんなのすぐバレちゃうよ!」
……なるほど。キャリアを感じさせる一言に、少しだけ感心した。
「あの的、見える?」
アンナが指差す先、遥か遠くに人型の的が立っている。
「自慢じゃないけど視力はいいんだ。見えるよ」
「うん! まず裕、撃ってみて!」
「いや、俺、狙撃銃なんて使ったことないんだけど……」
「教えてあげる! まずこう構えて、息を止めて……で、バーン!」
……教え方が感覚的すぎる。
俺はイメージを必死に補完しながら、スコープを覗き、引き金を引いた。
――タァァァンッ!
鼓膜を揺らす乾いた音。
想像以上の反動が肩に食い込み、鋭い痛みが走る。だが、その痛みもナノマシンの働きか、数秒で消えていった。
「おお! すごい! いきなり当たった!」
確認すると、弾は的の肩部を捉えていた。
「……おお、当たった」
内心で「どやぁ……」とガッツポーズを決める。
「次、私ね」
アンナが例のライフルを構える。
「同じ的?」
「うん!」
――ドンッ!
空気が震えるほどの轟音。
「ヒット」とアンナが言う。同時に、ジャキッ!という鮮やかな手つきで次弾が装填される。
彼女はスコープすら覗かず、俺と話しながら無造作に放ったのだ。
慌ててスコープで的を確認すると――その「眉間」のど真ん中に着弾。
「先輩、さすがっす……こわっ」
あまりの実力差に唖然とするしかない。
「……反動、大丈夫なの?」
「んー? 慣れちゃった!」
ケラケラと笑う彼女の横顔に、本物の兵士としての凄みを見た。
ちなみに、俺がまともに当てられたのはその最初の一発だけだった。
「裕、やっぱりマグレじゃーん!」
と、アンナに笑われた。




