第36話:【大敗】
「うお……おぉ……っ!」
右腕に走る、焼き付くような激痛に呻き声を上げる。まるで巨大な万力で強引に引きちぎられたような感覚。切り口の肉が泡立ち、ナノマシンによる修復が始まるが、そんな猶予すら与えてはくれない。
俺は残った左手で無理やり拳銃を抜き、引き金を引いた。
――チュインッ!
弾丸はまたしても見えない壁に弾き落とされる。
その直後、今度は左腕に衝撃が走った。
「ぐわああああああ!!」
二度目の激痛。両腕を根元から失い、俺は血の海に膝をついた。
――パァンッ!
アンナが再び発砲するが、やはり弾かれる。実験体が無表情のまま、アンナの方へ手をかざした。
「アンナ!!」
俺は脚の力だけで無理やり立ち上がり、アンナの前に飛び出した。直後、凄まじい衝撃波が俺を襲う。背後の雑居ビルのガラスが全て粉々に砕け散り、吹き飛ばされた俺はアンナを巻き込みながら、店内の奥深くまで転がった。
壁に激突し、ようやく止まる。
「この子、なんなの……っ!」
アンナは恐怖でガタガタと震え、ズボンを濡らしていた。
死線を何度も越えてきた彼女が、これほどの恐怖に呑まれる。それほどまでにこの実験体は、生物としての格が違いすぎた。
実験体が再び手をかざし、空気を「押し込む」ような仕草を見せる。
ミシミシと壁が崩れ、俺たちはさらに瓦礫の奥へと押し潰されていく。
瓦礫を押し退け、なんとか立ち上がった。
右腕は肘のあたりまで再生したが、左腕はまだ肩から先がない。
攻撃手段は、再生しかけの腕と、蹴りのみ。
どうする? どうしたら勝てる?
……そもそも、人間が勝てる相手なのか?
俺たちの必死な足掻きなど、奴にとってはただの遊びに過ぎない。まるで蟻の足を一本ずつもぎ取る子供のような、無邪気で残酷な蹂躙。
だが突然、実験体はすーっと、重力を無視して宙に浮いた。
そのまま、俺たちに興味を失ったかのように、夜の空へと飛んで消えていった。
「と、飛んだ……」
「た、助かったの……?」
「……みたいだ」
「裕、よかった……生きててよかったぁ……っ」
アンナが泣きながら抱きついてくる。
抱き返してやりたかったが、腕の再生はまだ間に合わなかった。
王との死闘が「格闘」だったなら、これはもはや「災害」だ。
最強タッグと自負してた俺たちが、文字通り手も足も出なかった。




