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第35話:【超能力】


 街に出ると、そこは地獄だった。至る所に死体が転がり、移動しながら無差別に殺戮を繰り返していることが容易に想像できた。遠くからは爆発音や絶え間ない銃声が響いている。


「この足跡、実験体じゃないかな? 血の足跡!」

「本当だ! 急ぐぞ、アンナ!」



 いた。血まみれの舗装路を素足で歩く影。……子供? アンナよりもさらに小さい。

「止まれ! 止まらないと撃つぞ!」


 俺の怒声に、実験体はゆっくりと振り向いた。


 まだ幼い女の子だ。10歳くらいだろうか。一瞬、その幼さに躊躇いが生じた――その直後、俺の体は何の前触れもなく、猛烈な勢いで後方へ吹き飛ばされた。


 触れられてすらいない。視線が合っただけだ。


「ぐはっ!」


 受け身すら取れず、無様に地面に叩きつけられる。


「裕! このぉっ!」


 アンナは拳銃を構え、相手の幼さからか、少し躊躇ったあと脚を撃った。


いつもなら狙ったところは絶対外さないアンナだが、実験体の数センチ手前で激しく火花を散らし、何も無い空間に弾かれた。


 実験体は無造作に、まるで虫を払うかのように手を振った。


 それだけでアスファルトの地面が捲れ上がり、アンナが土砂ごと吹き飛ばされる。俺は彼女を庇うように受け止めたが、二人まとめて後方の壁まで転がされた。


 こんな化け物、どうすりゃいいんだ?

 飛び道具がダメなら、近接ならどうだ!


 俺は決死のダッシュで肉薄しようとしたが、実験体の数メートル手前で全身を金縛りにあったかのように動けなくなった。


 体が浮き上がる。見えない巨大な手に掴まれたような感覚。


 ――ドォンッ!


 そのまま、地面にヒビが入るほどの勢いで叩きつけられた。一回ではない。

 二回、三回、四回、五回。


 ドシャアッ、グチャッ、と嫌な音が鳴り響く。肉は裂け、骨は粉々に砕けた。


 最後には、ゴミのように遠くへ投げ捨てられる。


「裕ぁ!!」

 アンナが駆け寄ろうとするが、彼女もまた見えない力に弾かれ、雑居ビルの壁を突き破って中に突っ込んだ。


「あ……アン……ナ……」

 ナノマシンが必死に体を修復しようとしているが、破壊の速度に再生が追いつかない。


 俺は視界が赤く染まるほどの激痛に耐え、震える膝を叩いて立ち上がった。腰のショットガンを引き抜き、発砲する。


 だが、それも虚しく手前で弾き落とされた。


 実験体が、再びこちらに手をかざす。

 


 ――次の瞬間、俺の右腕が肩の根元から、呆気なくちぎれ飛んだ。

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