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第34話:【実験体】


 病院から戻った俺たちを待っていたのは、静寂ではなく、凄惨な破壊の光景だった。


「なにこれ……?」

 アンナが絶句する。研究所の重厚な防壁は飴細工のように捻じ曲げられ、硝煙と鉄錆の匂いが立ち込めていた。


「うっ……」

 足元で門番が呻き声を上げる。手足はあらぬ方向に曲がり、体はズタズタだ。ナノマシン兵ではない彼が、この傷で助からないのは一目でわかった。


「おい! どうした!? 何があった!?」

「じ……実験体が……脱、走……しました……」


「実験体!?」

 俺たち以外にもいたのか。

「み……みず……」


「アンナ! 水だ! 早く!」

「う、うん!」

 門番に水を飲ませる。だが、彼が飲み込んだ水は、開いた腹部からそのまま漏れ出て床を濡らした。彼はそのまま、力なく息を引き取った。


「高槻が心配だ、行くぞ!」

 俺とアンナは拳銃を抜き、地獄と化した研究所の奥へと踏み込んだ。


「……なんだこりゃあ」

 内部の惨状は、外よりさらに酷かった。壁には無数の銃痕、そして何より不気味なのは、巨大な何かが通り抜けたような凄まじい破壊痕。


 転がっている研究員たちは、まるで巨大な獣にでも襲われたかのように引きちぎられ、血と内臓が壁や天井にまで張り付いていた。


 俺たちは最奥の研究室へ急いだ。

「博士! 高槻博士!」

 瓦礫に埋もれていた高槻を揺り起こす。研究室もまた、暴風が吹き荒れたかのように破壊し尽くされていた。

「……やあ。食事は、どうだったかね……?」

 高槻は頭から血を流しながら、皮肉げに咳き込んだ。


「それより、この状況は一体……」

「……観測していた実験体が、突然、超能力を暴走させてね。」


「超能力?」

「そうだ。手をかざしただけで、重力も物理法則も無視してこの有様だ。私は運良く吹き飛ばされただけで済んだが、警備員は皆殺しだ。奴はゴミを払うような素振りで……トドメを刺しにすら来なかった。運が良かったよ」


「……他の皆も、全滅でした」

 俺の言葉に、高槻は苦々しく顔を歪めた。

「外に出たな……。二人とも、実験体を追ってくれ。奴は素足で出ていった。発砲も許可する。……もっとも、物理的な弾丸が通じればの話だがね」

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