第31話:【決着】
目一杯、奥までナイフを刺し込んだ。抵抗はもうない。だが王は動かない。倒れもしない。
(急所だぞ?倒れろよ!)
俺は焦り、力任せに、その心臓から下に向けてナイフを引き裂こうとした時、鈍い音と共にナイフが折れた。
全力で力を込めていた反動で、俺はそのまま派手に地面へ転がった。慌てて顔を上げると、まだ王はそこに立っている。
(まだ生きてる?!)
必死に転がって距離を取り腰の拳銃を抜いた。
――が、すぐに銃口を下ろした。
「……。?」
「ゆ、裕……? これって……」
アンナが呆然と呟く。
「……た、立ったまま死んでるみたい……」
最強と謳われた男は、心臓を貫かれ、頭を半分失いながらも、最後までその巨躯を地に伏せることはなかった。
俺たちは同時に深いため息をつき、その場にへたり込んだ。
「アンナ、カツ丼残さなくてよかったな!…ナイスショット」
「うん、…ナイスファイト」
「二人の勝ちだ。二人がかりだが、見事だったぞ」
ボスが血塗れの顔で笑った。
「ボス〜、ボロボロじゃん! どうしたのそれ」
「へっ! うるせぇ! だが王がナノマシン兵だったってことは、人間最強はやっぱり俺様かな!」
俺は立ち上がり、フラフラとボスに手を差し出した。
「あの時、ボスが来なかったらやられてた。ありがとう」
「警察がマフィアに感謝かよ」
ボスは俺の手を力強く握り返して立ち上がった。相変わらずの馬鹿力だ。
『ボス、テロリストを全滅させました(中国語)』
『よくやった。リーダーはいたか?(中国語)』
『いえ、ここにはいませんでした(中国語)』
「なんて?」
俺がアンナに聞くと、彼女は肩を貸りながら答えてくれた。
「テロリストは全滅したけど、リーダーはいなかったって……よいしょ」
アンナも何とか立ち上がる。
「てか、裕、ボロボロだよ! ひどい怪我……」
「なんか治んないんだ。すげーあちこち痛いし、骨もあちこち折れてるし……」
王との死闘で、ナノマシンの限界を完全に超えてしまったらしい。
「とにかく、後始末は俺たちに任せて、お前らは帰りな」
「とか言って、軍の武器をそのままパクる気でしょ?」
「バレたか!」
がはは、とボスが豪快に笑う。
俺は通信機を叩いた。
「高槻博士、女リーダーは取り逃がしましたが、テロリストは殲滅しました」
『わかった。二人とも戻ってきてくれ。あとの処理は私がやる』
「いえ、マフィアのボスが任せてほしいそうです」
『……そうか。わかった。任せよう』
こうして、戦場となった廃工場から硝煙が消えていった。
だが、あの女リーダーは、またしても闇の中へと姿を消した。




