第30話:【コンビネーション】
王の迫撃砲の砲身を胸に当てられ俺は死を悟った。
(終わった。呆気なかったな。アンナ、ごめん……頑張ったんだけど…だめだった…)
俺は死をあっさりと受け入れた。そう思わせるほどの圧倒的な絶望がそこにはあった。一度でもいいからモテたかったなー、なんて場違いな未練が頭をよぎる。
俺は静かに目を閉じ、衝撃を待った。
――ドンッ!
重厚な発砲音。これで俺はバラバラに……?
……あれ? 痛くない。
それに、この音、知っている。任務で何度も、耳にタコができるほど聞いた。
絶望の淵で、いつも最高のタイミングで降ってくる「救済」の音。
――アンナだ!
王は左の大腿部から激しく血を吹き出していた。
ドンッ!
「くっ!」
二発目は王が飛び退き、紙一重で回避する。
振り向くと、そこには壁に寄りかかり、今にも倒れそうなほどフラフラのアンナが、死神の鎌のような狙撃銃を構えて立っていた。
「アンナ!!」
俺は歓喜の声を上げた。
「なんで!? 手術中じゃなかったのかよ!」
「……弾が摘出されて、毒が消えたんだろ。ナノマシンが根性見せたか。だが、ありゃあまだフラフラじゃねぇか」
ボスが肩で息をしながら呟いた。
「フラフラするー……」
アンナはフラフラだ。根性で立ってる。でも、
「無事ならさっさと目を覚ませよな! 心配させやがって!」
俺は涙をこらえて叫んだ。
「小娘……(中国語)」
王が迫撃砲をアンナに向ける。撃たせるか!
俺は残った全力を振り絞り、迫撃砲の横っ面を蹴り上げた。狙いが逸れ、砲弾は遥か彼方の空き地で爆発する。
「俺が相手だ!」
今度は虚勢じゃない。腹の底から力が湧いてくる。
王は面倒くさそうに、再び迫撃砲を俺の至近距離で向ける。
ドンッ!
火を吹く直前、アンナの弾丸が迫撃砲そのものを粉砕した。
「ヒット」
いつもの、少し得意げなアンナのセリフ。
王の意識が一瞬アンナへ逸れた。その隙を、俺は見逃さない。抜け目なく、掴んでいた砂利で目潰し。
王が目を瞑った隙に、思いっきり王の股間へ向けて全力の蹴りを叩き込んだ。
「ぬぅ!」
流石の最強もこれには怯む。俺はすかさず地を這うようなカニバサミを仕掛け、倒れ込みながら王の右足をヒールホールドで極めた。
「裕、すごい! 汚い!」
アンナがあははと笑う。
王はとうとう壊れた迫撃砲を投げ捨て、腰に差していた巨大な青龍刀を引き抜いた。
それを俺の背中に突き立てようとする。
――ゴキッ!
俺は足首をへし折りながらも、青龍刀の軌道を紙一重で躱して距離を取った。
王の左脚は銃創、右足は俺がへし折った。まともな脚は一本もないはずだ。
だが、奴は平然とした顔で立ち上がり、折れた足を引きずることもなく青龍刀を構えた。俺もナイフを逆手に構え直す。
ドンッ!
三度、アンナの銃声。
王の頭部が半分吹き飛ぶ。
「ヒット」
王は倒れる――はずだった。だが、奴は立ったままだった。
それどころか、肉を泡立たせながら口を開く。
「小娘……(中国語)」
しゃべった。
「な、ナノマシン兵だったのか、お前も……!」
(バケモノじみた強さがわかった)
王は復讐の炎を宿した瞳でアンナの方へ突進しようとした。
俺はその背後から、もう一回容赦なく急所攻撃を叩き込む。
「き、貴様ら……(中国語)」
怒り狂った王が、俺に青龍刀を振り下ろす。
ドンッ!
「ヒット」
アンナの弾丸が、振り下ろされる直前の青龍刀を根元からへし折った。
俺は懐に飛び込み、全力でナイフを王の心臓に突き刺した。
抵抗する肉を裂き、ナノマシンの核心へ。
王が最後の力を振り絞り、俺の心臓へ「寸勁」を繰り出そうとした瞬間、アンナの弾丸が奴の右手を粉砕した。
「ヒット……今だよ!」
「こ、小娘ぇぇぇー……!!(中国語)」
鬼の形相で叫ぶ王の胸に目掛けナイフを突き立てた。




