第23話:【ナイフ】
第23話:【ナイフ】
腹部に対ナノマシン弾をくらった張は、凄まじい痙攣を起こしながら崩れ落ちた。
(……くたばったか?)
でも、張の執念は異常だった。痙攣する手でナイフを取り出したかと思ったら、自分の着弾したところを迷いもなく抉り取った。
(嘘だろ? 自分で抉ったよ! あれ痛いのに……。)
慌てて次の弾を込めるけど、そのわずかな隙に張は床を転がって、部屋の外へと逃げ出した。
「奴に逃げられた! 葵、裏側だ!」
『了解』
無線から葵の、いつもの温度のない短い返事が届く。
右腕はまだ欠けたまま。泡立ちながら再生中だ。
完治を待ってたら確実に逃げられる。
俺は欠けた腕のまま張を追った。
通路の途中に張られたコードに足が引っかかる。
――ドォンッ!
爆風に煽られて、壁に叩きつけられた。
(クソッ、こんな時にまた罠かよ! )
煤まみれになりながらも、なんとか意識を繋ぎ止めて前進。
廊下を曲がると、そこでは葵と張が激しい格闘戦が目に入る。
葵の流れるような打撃が次々とヒットする。張も中国拳法で応戦してるけど、葵は冷静に捌いて、鮮やかな投げから関節技に持ち込んだ。
――ゴキッ。
張の腕が折れる。続け様に張が隠し持っていたナイフを抜き、葵の太腿に深く突き立てた。
――ドンッ!
アンナの狙撃音が響き弾丸は張の心臓を貫く。
張は糸が切れた人形みたいに崩れ落ちた。
でも、今は張の生死よりも、葵が重傷だ。
「アキラ! 葵が刺された! 救急車! 早く!」と無線を飛ばした
葵が刺されたのは内腿の太い血管――大腿動脈だ。床が真っ赤に染まる。
(早くなんとかしないと死ぬぞ!)
パニックになってる俺とは裏腹に葵は驚くほど冷静だった。
痛そうな顔一つしない。
止血帯で自分で傷口の上を締め上げて、見事に止血を成功させていた。
――その後、到着した救急車で葵は運ばれていった。幸い命に別状はなかったけど、傷が深くて、任務への復帰は当分無理そうだ。
チームプレイを磨き始めたばかりの俺たちにとって、葵の離脱はあまりにも大きな痛手だ。




