第21話:【因縁】
「王……だと?」
珍しく高槻が狼狽えた。あの爬虫類みたいに冷血な高槻が?
「はい。……正直、我々だけで捜査を続行していいものかどうか」
アキラまで弱音を吐くなんて、よっぽどだ。
「そんなにとんでもない男なんですか?」
「ああ。王は戦場でひたすら戦果を上げ、一個師団に相当すると言われている。中国の英雄……いや、英雄だったと言うべきか。」
「だった?」と俺は聞き返した。
「数年前に上官殺しで指名手配と聞いていたが……そうか、日本にいたか」
「確かに化け物でした。再生が追いつかず、本気で死ぬかと思いましたよ」
(散弾まで避けてたし、散弾だぞ…)
「とにかく、早急に対策を立てよう。明日はアンナくんが復帰する。彼女の精密狙撃は大きな力になるはずだ。捜査班にリーダーの女を総力挙げて捜索させる。それまで君たちは休んでくれ」
◇
寮に戻ると、共有スペースの居間でアンナが狙撃銃をメンテナンスしていた。
「おかえりー!」
「ただいま」
「……アンナ」
「なぁに?」
「王って中国人、知ってる?」
カラン、とアンナが持っていた工具を床に落とした。
「……なんで、その名前を知ってるの?」
「今日、任務先で会ったんだ。恐ろしく強かったよ」
「怪我は……怪我は無い!?」
アンナが血相を変えて近寄ってくる。
「あ、ああ……あっても治るよ、ナノマシン兵だし」
「あ! そうだった!」
アンナは胸を撫で下ろしたが、その表情はまだ硬い。
「何かあったのか?」
「……うん。昔、私の友達をバラバラにしたのは、その王って男だよ。追放されたって聞いてたのに、なんで日本に……」
アンナのトラウマの元凶だったのか。あんな化け物に友達を目の前でやられたら、そりゃあ消えない傷になる。
「女リーダーと関わってる可能性がある。博士が今、対策を練ってくれてるよ」
「……裕、もし次、王に会ったら絶対に逃げてね。」
「マフィアのボスとどっちが強いかな?」
「多分……圧倒的に王だと思う」
マジか…あの怪獣みたいなボスも勝てないのか
「大掛かりな作戦になるから、それまで休めって言われたよ」
「せっかく謹慎明けるのに休みかぁ」
「明日からアンナも復帰だし、また一緒に訓練して、強くなろ!頑張ろうな!」
「うん!」
◇
その夜、アキラと葵が寮にやってきた。
「休んでいる時にすまないな。今後の訓練方針だが、チームとしての基礎戦力を底上げしたい」
「具体的に何をするの?」
「それぞれが得意な技能を互いに教え合う。そしてチームプレイの連携をもっと密にするんだ」
「徒手空拳で毎日ボコボコにされるだけだったから助かるよ」
なんて軽く考えていた俺が馬鹿だった。
翌日からは軍隊仕込み、文字通りの「地獄の特訓」が始まった。
葵に毎日関節を極められ、
アキラの実戦狙撃を想定した回避訓練で穴だらけになった…
訓練で死ぬかと思ったのは初めての訓練以来だった
そんな毎日だった。
◇
体つきが変わり、チームの連携が噛み合って自信がついてきた数日後――
高槻から招集がかかった。
「ふむ、チームとして完成されてきたな。特に裕くん、葵くんに一度勝ったそうだね。素晴らしい。あとで詳しく採血させてくれ」
高槻が満足げに頷く。採血ばかりの吸血トカゲめ
「それで、何か新しい情報は掴めたんですか?」
「女リーダーの所在はまだ不明だが、やつの右腕である『爆弾魔』の居場所が特定された。E区の雑居ビルだ。そして、これが写真だ。名前は張」
写真を見て、思わず歯軋りをした。
あの日、俺の首を切り裂いたナノマシン兵だ。
「こいつですよ! アンナに頭を撃ち抜かれても起き上がってきたやつだ!」
「そうか、やはりやつも手強いナノマシン兵か。十分気をつけてくれたまえ」
俺たちは装備を整え、決戦の地、E区へと向かった。




