第16話:【雨】
激痛で意識が遠のいた頃、俺は夢を見ていた。
初任務の頃に出会った、あの少女と理想の日本を語り合う夢だ。またこれか。どうせ最後には、彼女の眉間に穴空いて銃声で目が覚めるんだろ?
「いつか、治安が良くなって優しい日本が来るといいですよね!」
少女が眩しい笑顔を向けてくる。
「暴走族も銀行強盗もいないなんて、どんな楽園だよ!ないない!」
二人で笑い合った。
でも、いつもと違った。あの絶望の発砲音が、いつまで経っても聞こえてこない。
「時間みたいですね。呼んでますよ」
少女は穏やかに微笑み、俺の背中を軽く押した。
「行ってあげてください」
――裕!
遠くでアンナの声が聞こえる。何泣いてんだよ。こんなに楽しい夢を見てるのに。
――裕――!!
そんなに叫ばなくても聞こえてるって。……あれ? 声が出ない。
ん? 雨か? 頬に水滴が落ちてきた。でも冷たくない。やけに、温かい。
「はっ……!」
目を開けると、俺はアンナの腕の中で横たわっていた。
夢? てか、ここどこ?
「裕ぁ……っ!!」
アンナが、泣きじゃくりながら俺を強く抱きしめてくる。
硝煙と石鹸の匂い。
「間に合ったようね」
傍らで葵がホッとした顔をして、手に着いた血を拭っていた。弾は……抜けたのか。
「アンナ……持ち場は?」
「……離れた」
アンナはボロボロと涙を零しながら答えた。
「まだ、作戦中か……?」
「いえ、制圧は完了よ。…ただ、リーダーは逃げたみたいね。」
葵が静かに答える。その時、無線からアキラの落ち着いた声が入った。
『様子はどうだ?』
「ええ、今目を覚ましたわ」
『何よりだ。アンナはいるか』
「……はい」
いつもの元気はどこにもない。絞り出すような、掠れた敬語だった。
『命令違反だ』
アキラの宣告は淡々としていて、それゆえに重かった。
「はい……」
アンナはもう一度、力なく答えた。
「あ、アキラ。アンナを許してやれないかな……? なんて」
俺が口を挟むと、通信の向こうでアキラの声が冷たく響く。
『ダメだ。処罰については高槻博士と話し合う。それなりの罰を与えるからな』
「……了解」
アンナの肩が小さく震え、俺の腕の中でさらに縮こまった気がした。




