第10話:【マフィア】
爆破の報告を受けた高槻は、驚く様子もなく「そうか」とだけ口にした。
「……え、それだけですか? ナノマシン兵かもしれないんですよ?」
「ああ。だが、その前に武器工場の場所を突き止めたいのだよ」
高槻の優先順位は、いつだって人間味に欠けている。
「店員は口を割らなかったの? 私が『尋問』代わろうか?」
こわっ!
「いや、何も知らないようだったよ。私が直々に『尋問』したからね」
「た、高槻がやったの……?」
アンナが珍しく身震いした。……え、博士の尋問ってそんなにヤバいのか?
「引き続き、M市で調査を続けたまえ。そこには中国マフィアの拠点がある。そこから当たるんだ」
◇
「裕ぁ、ラウワン行こうよー」
「……後にしなさい」
マフィアの調査だと言っているのに、この相棒は相変わらずだ。
「じゃあ、真面目にマフィアに話聞く? アジトなら知ってるよ。私、昔そこ潰したことあるもん」
「君、さらっと凄いこと言うよね……」
相棒の過去が、時々本気で怖くなる。
◇
「たのもー!」
アンナは明るいノリでマフィアのアジトへ突入した。
「誰だ!」「カチコミか!?」
一斉に銃口が向けられるが、一人の構成員が悲鳴を上げた。
「待て! この女……『死神』だ!」
アンナは怯む様子もなく、流暢な中国語で交渉を始めた。
「新しいボスいる? アンナが来たって言えば分かると思うよ」
やがて奥から、身長2メートルはあろうかというスキンヘッドの巨漢が現れた。
「アンナか。……何の用だ?」
意外にも、ボスの日本語は完璧だった。
「武器を密造してる工場の場所を知らない? もしくは、そこの女リーダー!」
ボスは片眉を上げ、低く答える。
「……それは教えられないな」
「私の頼みでも?」
一触即発。アンナの瞳から温度が消える。この二人、過去に何があったんだ?
重苦しい沈黙の後、ボスが溜息をついた。
「……負けたよ。俺たちもその『女リーダー』を探しているところだ。奴は俺たちの仲間ではない」
「探してどうするつもり?」
「……分かるだろう?」
「あー、そっか」
アンナだけが納得している。……十中八九、消す(タマをとる)って意味だろうな。
「で、アタリは付いてないの?」
「M市にはもういないだろう。K市には行ったか?」
「ううん、まだ」
「そこに人手を割けなくてな。代わりに探してくれないか。ただし――見つけたら始末してくれ」
女リーダーと何かあったのだろうか。その声には怒気が含まれていた。
「わかった! また来るね!」
「二度と来るな」
アンナは明るく振る舞っていたが、その手は最後までジャケットの中の拳銃から離れていなかった。
◇
「アンナ、あのボスと知り合いだったのか?」
「うん! 邪魔だった先代を私が撃ったから、恩を感じてるんだって。高槻も『利用価値がある』って言って検挙しないの!」
この国の警察と軍、想像以上に真っ黒だ。
「あのボスって強いのか?」
「強いよ! 生身の人間なのに物凄い怪力なんだから!裕、一人であの人に近づいちゃダメだよ!」
ナノマシン兵である俺に、アンナは真面目な顔で忠告した。




