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「ねぇ、せっかくだし」
サルビアの手を両手で握りこむようにして包んだフウロ。その眼は輝いていた。
「せっかくだし?」
「海、入らない?」
フウロはそう言って、サルビアの返事も待たずに、彼女の手を引っ張った。
「ちょっと、待って、きゃっ」
サルビアにしては珍しい乙女チックな声とともに、二人は海へと転ぶように入ると、大きな水しぶきを立てた。
幸い、この砂浜の水深はほとんどない。彼女たちの身長でも、相当奥まで行かなければ、膝くらいまでしか浸からないだろう。
「もう、びしょびしょじゃない!」
「あはは! これで最初の態度はお相子ね」
二人は水を掛け合って笑う。僕はそんな風景を砂浜に座りながら眺めている。なんだかここだけ時間の流れが非常にゆっくりと進んでいるみたいだ。
「こんにちは」
僕がぼーっと彼女たちを眺めていると、背後から男の声で声を掛けられ、体がびくっと震えた。
「えっと、こんにちは?」
振り返った先に居たのは、初めて見る青年だった。耳にかかるほどの長さの黒髪、チェック柄の入ったポロシャツに、下はジーパンを履いており、穏やかな表情で僕を見ていた。
「どちら様で、しょうか?」
「また、来るね」
僕の質問に答えず、彼は一方的に話して穏やかな表情で去ってしまった。
一体何だったのかと、彼の過ぎ去っていった方を眺めていると、海から二人が上がってきた。
「どうしたの?」
全身をびしょ濡れで、髪もぺしゃんこの状態でもどって来た二人に僕は思わずくすりと笑ってしまう。
「二人とも楽しめたみたいで良かった。着替えはある?」
「私は戻ればあるけど」
サルビアが横を見ると、気まずそうにフウロが僕を見た。
「その、急にここに連れてこられたので……」
「そっか、どうしようか」
フウロもサルビアに違わず全身びしょ濡れだ。僕の服は大きいだろうし、セロに聞けばなにかあるだろうか。
「とりあえずセロに聞いてみるよ」
この時期でもびしょ濡れでは体を冷やしてしまう。僕らは早々に蜘蛛へと戻ることにした。




