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僕はその場を後にし、クラトスの元に戻った僕は板を置いてその場をまた後にした。
向かったのは、あの時の寺の跡地。――いや、鳥居があったから神社だろうか。
ともかく、あの宗教施設だ。もう今はなにも残っていないが、僕はなんとなくそこに行くことにした。
辿り着いたそこは、やっぱりただの空き地で、僕がそこから離れた時と変わらない。実際に行くとあの日の事が今でも鮮明に思い出せる。懐かしい、これは確かに僕の記憶、思い出だ。
僕が少し気がかりだったのは、あの塔に居た、いや’あった’というもの。
それを僕は実際に見たわけではないが、それに準ずるものは見た。顔だけで町の中を徘徊する化け物。
あの黒い羽の生えたオレンジの袈裟を着た僧侶の烏色はそれがあの塔の中にもあると言っていたが、あの塔の幅的に、恐らく入らないだろうと思ったのだ。
そもそもあの巫女の力は、ものを修復するというものだった。ここにあった塔は修復されること無く、消えたはずだ。巫女の力はどうなったんだ?
考えようにも、答えは出ない。そしてその答えを知っている可能性のある存在も、もうここにはいない。あのオレンジの袈裟を着た烏色が懐かしい。あの巨大な鳥を追って、どこまで行ってしまったのだろうか。
僕はもう、恐らくは会えないであろう彼を偲び、空を見上げると、それはあった。
空に浮かぶ黒点。一瞬、ただの見間違いや、盲点の類だと思ったが違う。まるで空の一部を何かが突き破ったように黒く、そこだけ浮くように黒くなっていた。
そしてそれは段々と大きくなって、空を覆うほどに大きくなって、僕の元へと近づいて来た。
近づいてくると、その黒い点の輪郭が分かって来た。黒い羽を広げ、翼をはためかせる姿。それはまさにあの日取り逃がした怪鳥だった。
「そこの君! 危ないよ!」
そしてその怪鳥の背中から聞こえてきたのは、はたまた懐かしいものだった。胸に突き刺さる芯の通った声。
黒色の背中からぬっと顔を出したのは、オレンジ色の袈裟。烏色だ。
幾度かの羽ばたきを終えた怪鳥はその場に着陸すると、体を伏せるように地面に密着させた。
烏色は羽を伸ばすと、飛び上がる様に着地した。
「全く、ここは私の私有地ですよ……って君は確か」
「お久ぶりです。タイヨウです。あのこの鳥は……」
「おお!」
彼は不審がる視線から一転、嬉しそうな表情で僕の手を取って勢いよく振った。
「懐かしいなぁ! そうかそうか! それなら後ろの子も早く呼ばなきゃだ!」
そういって、彼はまたこの黒い怪鳥の背中に飛び上がった。




