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　抱えられたまま、なんの抵抗もできず、外へと飛び出した。

　全身に風を受け重力のままに地面に落ちたが、地面にぶつかる寸前で烏色は翼をはばたかせ、ふわりと着地した。

「お二人は逃げてください、私でも足止めくらいはできるでしょう」

　タイヨウを下ろした烏色は燃えさかった永塔婆(エントゥーバ)に向き直った。

　黒い煙の中から、影が出てきた。

　袈裟を着た姿に、手には錫杖。

　黒い姿だが、その見た目は烏色そっくりだ。

　その場にいるはずなのに、その体は希薄で現実味がない。

「あれは相性悪いね。逃げなさい」

　ツキは烏色を囮としてしか見ていなかったが、タイヨウはそう易々と人を見捨てられなかった。

「烏色さん。僕も戦いますよ！」

「子供は守られていなさい！」

　タイヨウは隣に立とうとしたが、烏色はそれを拒み走りだした。

「錫杖よ、彼の者を貫きなさい！」

　錫杖の先端が変形して鋭く変形した。

　疾風怒濤と乱れ撃つ突きだが、影法師はそれを錫杖で軽くいなした。

　まるで全て見透かされているようで、その差は歴然だ。

「やっぱり、僕も手伝わなきゃ」

　タイヨウは覚悟を決め、影法師まで跳ねるように近づき、殴りかかった。

「えっ！？」

　完全に不意を突いて懐を殴ったはずだった。

　タイヨウの腕は影法師を文字通りすり抜けてしまった。

　暖簾に腕押し、ぬかに釘。どれだけ殴っても、手ごたえのひとつもなかった。

　影法師が錫杖をふるう。

　タイヨウの攻撃は通らないが、影法師の攻撃は、タイヨウの脇腹を直撃した。

「タイヨウ！　大丈夫？」

「いった！　あれ、ズルじゃない？」

　数メートル飛ばされたタイヨウが脇腹を抑えながら叫ぶ。

「影法師は実態が無い呪いの集合体のようなものです。普通の武器では傷ひとつ付けられません」

　影法師に弾き飛ばされた烏色。

　もう打つ手なしかと思ったが、烏色はまだあきらめていない。

　すぐに体制を立て直し、影法師に飛んでいった。

「ねぇ、どうしようツキ」

　タイヨウの頭からは逃げることなどもう考えられていなかった。

　「はぁ……タイヨウ。これを使って」

　ツキはリュックから銀のナイフを咥えてタイヨウに渡した。

「これは？」

「むかし、バンパイアハンターを名乗る人からもらったものよ。バンパイアも悪霊も似たようなものでしょうし、多分効くんじゃないかしら」

　柄に蛇の装飾がされた刃渡り十センチ程度のナイフ。

　刀身は一寸の曇りもなく、光を反射していた。