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ゴウンゴウンという機械音が聞こえる。頭に電流が走ったような感覚と共に、僕は目を覚ました。
「あれ、ここは?」
目の前には、心配そうに僕の顔を覗くツキ。その後ろには胸に手を当てたセロと、大きな翼の天使が居た。
「ツキ? あ、そっか僕」
「タイヨウ! 思い出したかい?」
「うん」
僕は自分の背中を触る。随分と軽くなった。ここでのことも覚えている。
「あれ、ラファさんは?」
「ラファ?」
「あの男の名前よ」
サキュエルが補足すると、ツキは納得したのか小さくうなずく。
「あぁ、あいつか。……タイヨウが気にすることではない」
「そっか……」
記憶が戻る前の最期の記憶は、爆発を起こした彼の姿だった。この国はあのような犯罪を見逃すような国ではない。けれど。
「彼にもう会えないのは、残念だな」
「そんなことより、タイヨウ君の記憶が戻って良かったわぁ~」
サキュエルさんが僕の頭に付いた謎の機械を取り僕の頭を撫でた。優しくて冷たい手だ。
「ありがとうございます」
「助かった」
「良いのよ~ツキちゃんの頼みだし。また何かあったら頼んでね」
サキュエルさんはしばらく僕の頭を撫でまわすと、肩をポンと叩いた。
昔会った時から変わらない。優しい人だ。
「そうね。それじゃ、もう行くわ」
「えぇ。また会いましょう」
手を振るサキュエルさんと、そのメイドさんに見送られ、僕らは屋敷を後にした。
「……人の本性とは、どれなのでしょうね」
「? どういうこと」
「いえ、なんでもないです」
セロは遠く、屋敷のほうを見つめて、そうつぶやいたが、すぐに前を向き直してしまった。
「さて、これでぬえ探しに集中できますね」
「ぬえ……あ!」
「どうしました?」
突然、大声を出した僕に慌てて駆け寄るセロ、肩に乗ったままのツキも僕の顔を見る。
「ぬえ、僕ここで会ったよ!」
「なに?」
「本当ですか!? どこで」
「こっち、ラファさんと住んでたとこの近くの井戸で、会ったんだ。今朝も居たからまだいると思う!」
「本当ですか! 行きましょう! すぐ行きましょう!」
僕を先頭に、走る。普通の住宅街からだんだん薄暗く、建物が高くなる中を走る。
「……」
僕は井戸へと向かう途中で足を止める。そこは、彼と住んでいた掘っ立て小屋。もう彼は居ないのに、足が止まってしまう。
「タイヨウ。過ぎたことだ。人生出会いがあれば別れもある」
「……うん」
後ろ髪惹かれる思いも程々に、僕はまた走った。




