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紅茶を飲んで待っていると、扉がノックされた。
紅茶はまだ半分残っていた。どうやら比較的早く来たようだ。
「お待たせ〜!」
勢いよく、吹き飛ばすように扉を開いて現れたのは一人の女の天使。
LEDの様に輝く天使の輪、二対に別れた合計四枚の翼の後ろからは後光が刺していた。名を言われなくても分かる。彼女がサキュエルだ。
胸部から山の様に張り出した双丘によって皺になった白いワンピースは、天使というにはあまりに扇状的だ。
その顔は整っているというのに、溶ける様にだらけていた。
すらりとして産毛のひとつも生えていない柔肌の腕を伸ばして、ツキ様のことを持ち上げた。
「あら? ちょっと痩せた?」
「下ろさんか! 痩せたもなにも、お主とこの姿で会うのは初だ」
「そんなこと言わないでよ~」
腕の中でじたばたと暴れるツキ様だったが、サキュエルがそれを気にした様子はない。むしろその鱗に自身の頬をこすりつけていた。
「ふぅ、それで今日はどうしたの? 罪人まで連れて」
ひとしきりツキ様の鱗を堪能したサキュエルは、まだツキ様を手に抱えたまま、ソファに座った。
男を見る目は、ツキ様へと向けるものに反して酷く冷たい。私やタイヨウ様に関してはもはや眼中にない。居ないもの同然だ。
「タイヨウの記憶を戻して欲しいの。あの男もついでに戻してくれる?」
「タイヨウくん? 大きくなったのね。えぇタイヨウ君は良いけど、その男は駄目」
サキュエルの視線が、ツキ様からタイヨウ様へと移る。その視線は先ほどの無関心は消え、優しい目に変わっていた。しかし、タイヨウは緊張しているのか、その場からピクリとも動かない。
「どうして……! 私が何をしたって言うんですか!」
懇願する男だが、サキュエルの目は冷ややかなままだ。
「そこまでいうなら、ついてきなさい。ツキちゃんと、そこのメイドはここで待機ね」
私の手にツキ様が戻る。ついていこうとするも、先に静止させられてしまう。ツキ様が何も言わないので、私もその場で待つことにした。
私たちの待つ部屋の上、三階から何かの暴れる音が響いたのは、それから数分後のことであった。




