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「どういうことですか?」
震える男は、自身の羽を指さした。片方が根元から切り落とされている。
「見ての通り、私は羽を落されています。これは犯罪者の証、ですが私にはこうなった記憶などありません。覚えているのは幸せな家族の記憶」
男は机の上二置かれた写真立てを撫でる。色あせた写真の中で笑うのは、二人の男女と少女だ。三人とも羽の生えた天使の姿をしていた。
写真の中の男は、目の前の男に非常に似ていた。同一人物だということはすぐに理解できた。
「私の家族はあの大天使に壊されたのです」
そうつぶやく男の顔は憎悪に満ちていた。
「くだらない」
そう、男の言葉を一蹴したのは、やはりツキ様だった。タイヨウ様の首に巻き付いた状態で男を見下す。
「あの女はそういうもんではない」
「ではなぜ私はこのような仕打ちを!」
「知るか。知りたいなら着いてこい。中に入るくらいなら手伝ってやろう」
そういわれた男も、それを拒否できるわけもなく、結局私たちは、四人でその大天使とやらのいる屋敷へと向かうことになった。
屋敷の門前には誰もいない。ここまで豪華な建物だ。てっきり門番でもいると思っていた。
ツキ様はその門を開けるよう、タイヨウ様に指示を出す。
大きく音を立てて開かれた門。すると、中の庭から誰かが走ってきた。
「ちょっとちょっとちょっとー! ダメですよ! ここがどこだかわかってるんですか?」
「ひっ」
やって来たメイドの姿を見て、タイヨウ様が小さく悲鳴を上げた。
メイドは黒のツインテールに、猫のような吊り目だ。服装は黒と白のレースが付いたシックなものだ。
そのクールそうで人を寄せずらい顔とは裏腹に、そのしゃべり方は非常に楽でフレンドリーなものだった。
「ここはあの大天使サキュエル様の邸宅ですよ! それに、その人犯罪者ですよね?」
メイドは鋭く男を睨む。ツキはその視線を遮るように、間に割って入る。
「ツキだ。サキュエルにそういえばわかる」
するとメイドはやれやれといった風に手を振ると、ため息を吐いた。
「あーいるんですよねたまに。そういう人、残念ですが、サキュエル様も忙しいので、お帰りいただけます?」
「話にならん。メイド長でもいいから呼んでこい」
「はぁ、というかそっちの子はこの前、不法侵入した子じゃないですか。仕方ないですねぇ」
メイドはタイヨウ様を見て首を振ると、手を空へと掲げた。
「サキュエル様に代行し、刑を執行します」
そういったメイドの手元が光り、その手には槍が握られていた。




